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第25話:パーティ結成

 思いがけないリナリアとの出会い、柚月と蓮斗が過去の関係を取り戻した翌日。


 蓮斗達はギルド本部でパーティー名の申請をした後、ちょうどよく転がって来た行商人の護衛任務を引き受け目的地へ向かう行商人の馬車——引いているのは馬ではなく、熊のようなフォルムの魔獣——に乗り込む形で、王都から北へと向かっていた。


 肝心のリナリアは相変わらずドライな反応で、ベル以外には表情らしい表情も見せなかった。


 唯一例外があるとすればクロマルと接している時だろうか……例に漏れずこの魔犬はリナリアを懐柔し、新たな称号を獲得していた。



 ◇苦露魔流クロマル


 新称号:ギルド本部の看板犬


 新固有スキル:ギルド本部職員召喚:発動条件:常時。


 効果:ギルド本部に所属する職員を指名召喚できる。



 柚月の言うところの〝ファンタジー〟に多少耐性がついて来た蓮斗も流石に意味がわからない、と突っ込まずにはいられなかった。


 ただ一つ、クロマルを通して理解したことは、この世界では誰がつけているのか——見当はついているが口に出したくない——称号という概念が存在し、称号に応じて《固有スキル》という、唯一無二の能力を得る事が出来るということだろう。


 にしてもやはり理解に苦しむ称号と能力ではある。


「はぁ〜、パーティー名は絶対に〝チームクロちゃんず〟にしようと思っていのですけど」

「……」

「……」


 本日何度目かのベルによる呟き。


 これに関しては蓮斗も柚月も一貫して〝無反応〟を決め込んでいる。

 はっきり言って勘弁してほしい、どれだけ溺愛しているのだ、という話である。


「ムゥ〜! 無視しないでくださいっ! それにパーティー名が〝カタストロフ〟なのは、やっぱり納得できませんっ‼︎  野蛮な感じですし、使命ある旅ですのに、災害というのは」


 決定したパーティ名に未だ納得できないベルは頬を膨らませ講義を続けている。


 もっともランクの高いベルをリーダーとして蓮斗達の三人と一匹を含むパーティー名は蓮斗の発案で〝カタストロフ〟となった。


 なぜかこの件に関してはリナリアも積極的で、ベルの意見を半ば握り潰す形で強引に申請を通したのだ。


「あ? いいじゃねぇか。リーダーのベルが〝暴風姫〟で通ってんだからよ? それにオレらは正義感溢れる勇者様と違って、御行儀の良いチームって訳じゃねぇ。自己主義を王道と履き違えてやがるバカどもを蹴散らす災害であり厄災だろうが」


「うん! ボクもに賛成! なんかカッコいいしっ! あ、、宿に置いてあったお菓子持って来たんだけど食べる?」


 蓮斗の言葉にベルは僅かに表情を引き締め、しかし、ここへ乗っかって来た柚月の言動に眉根を寄せて、ジトっとした視線をむけてくる。


「……まぁ、理由は納得できます。決まったものは仕方がないです。

 そんなことより、二人は昨日なにかあったのですか? ユズキがいつの間にか随分と懐いているような……というか、物理的に近いです」


 明らかに昨日までとは雰囲気を一変させた柚月が、まるで心の拠り所でもあるかのように蓮斗へと接していた。


 それだけならば、蓮斗としても兄的な包容力で受け止めてやりたいと考えてはいるのだが、ベルの言う通り、なにせ近いのだ。


 宿を出てからと言うもの、ぴったりと蓮斗の横に張り付き、レンくん、レンくん、と隙あらば連呼し、気を許すと腕でも組んできそうな勢いである。


「……あ〜、まぁ、気のせいだ。コイツは元々こう言うタイプだからな……今までが大人しすぎただけで」


 何事にも積極的で、明るく前向き、誰とでもすぐに仲良くなれる社交性の持ち主。

 というのが、蓮斗の抱く柚月に対する本来の印象である。


 自然な動作で言いながら蓮斗が柚月の頭をポンポンと撫でれば、ふにゃっと気持ちよさそうに表情を緩ませる。


「————ッ‼︎ なんでしょう、こう、今までにない感情が内側からメラメラと燃え上がってくる感じですっ! 本当ならいっそのようで微笑ましく見えるはずなんですが……。

とりあえずレント、わたくしも撫で撫でを所望致します!」


「どんな理屈だよ」


 ずいっと頭を差し出してくるベル。


 柚月に対してはあくまで〝兄〟的な感覚で接しているのであって、ベルにも易々と同じ事が出来るのかと問われれば、決してそのようなことはない。


 蓮斗もそれなりに拗らせているのだ。


「不公平ですぅ‼︎ リーダー命令ですよっ! レントッ! 撫でてください」


 ベルに引く気配は見えない。


 こうなれば引き伸ばすだけ面倒と言うもので、蓮斗は仕方なく不器用にベルの頭を撫でた。


 瞬間ほくほくした表情でご機嫌にクロマルと遊び始めたベルを見て、本当に女という生き物は理解できない。と手に残るベルを撫でた感触に人知れず耳を染めたのであった。


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