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第15話:師匠の背中は遠かった

 商人の護衛を終えた後のその足で、下町の宿屋泡沫うたかたの夢亭に向かった。


 そして馬から降りると、宿に入っていく。


 宿自体は小さめだが雰囲気の良い宿だった。



 宿のフロントに行き、「ウォン・ウィリアムは泊まっていますか?」と静かに宿の主人に聞いた。


「あんたは?」と聞かれるので「弟子の内の一人です」と伝えた。


 すると、宿屋の主人が何ともいいにくいような表情を浮かべた。


「あの人は今はウチに泊まってねえんだ。最初の数週間はいたんだが……」と言葉を濁した。


「詳しいところは、プレグレードの南西門の近辺で修行している奴に聞いてくれ」といわれたのであった。



 いったん宿から出て、首を左右に振った。


「南西門の近くで修行している奴に聞いてくれとのことです。聞きに来ましょう」というと全員一致で頷いた。


 また白馬に乗って南西門から出る、そして近くで修行をしているドワーフと思しき人に聞こうと思った。


 白馬から、白いサーコートをひるがえし降りた。


 そのドワーフの男性は艶無しの黒色の髪でいわゆる角刈り、身長百三十センチほどで体格は筋肉質で格闘家的な感じだった(ドワーフ的に見れば痩せっぽちに該当すると思われた)。


 肌は赤褐色(いわゆる、濃い目に日焼けした肌の色)で白い稽古着と思われるものを着ていた。


 近くまで行き「私はウィオラ・オルビス・テッラエと申します。修行時間中に申し訳ないのですが、人を探しています」と伝えた。


 そのドワーフは黒い瞳でこちらを見て荒い口調で、「俺はエン・フウという。誰を探しているんだ?」といってくれた。


「探しているのは、ウォン・ウィリアム。どことなく人間離れしていて、達観された見方をよくする御人です」と伝えた。


「俺らに三日前まで、何かしら教えてくれていたんだが。今はここにはいない……と思う。詳しくは、プレグレードの冒険者ギルドのギルドマスターが旧知の仲らしい。何か知っているかもしれない。すまんがそれくらいしか俺らにも分からないんだ」と答えてくださったのだった。


「ありがとうございます。ギルドマスターに会ってきます。修行の時間をありがとうございました」と答えサーコートを翻すと白馬のほうに戻って行った。


 そのまま颯爽と白馬にまたがると、きびすを返して今度は冒険者ギルドに行くのである。


 冒険者ギルド前で白馬を、『ウィーゼル』に預けるとギルドの中に入っていった。


 受付でギルドマスターに取り次いでもらう様にいった。


 ギルド証の提示を求められたので、見せた。


 オール三十七のギルド証を。


 その瞬間、受付嬢が固まった。


 静かに「大丈夫ですか?」と聞くと、「だ・だ・大丈夫です」と明らかに大丈夫そうでない返事が得られた。


「直ぐお取次ぎします」というと、直通の電話で私のことを話していた。


「直ぐにお会いするそうです、三階におあがりください」といった。


 階段前を占拠しているパーティーを軽く、にらみつけるとその迫力だけでそのパーティーが退いた。


 そのまま、階段を上がって三階まで行った。


 ギルドマスターの部屋は大体どこの支部でも共通だ。


 階段を上がって真っ直ぐに突き当りまで行く、その扉を軽くノックした。


「どうぞ」と中から返答があった。


 扉を開けて、中に入る。


「白き伝説の乙女……」とギルドマスターがそうつぶやいた。


「ウォン・ウィリアムと、旧知の仲とお聞きしました。ウォン・ウィリアムは今、どこにいますか?」と私が静かにいった。


「今は……ここにはいない、ギルド直轄地北部フュリュングルに居ると思う。君が来たら、渡すように言われていたものがある正式な書簡だ受け取ってもらえるかい?」といわれたのであった。


 私には、受け取らないという選択肢は無く。


「受け取ります」といって正式なギルドのものである、という筒に入った書簡を受け取った。

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