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敵キャラで、チートだなんて、羨ましい……

 アレン殿下がそっと私に耳打ちしてきた。


「いいかい。三人がカース殿の気を引いているうちにあの壁に書かれてる魔法陣を消すんだ。あの魔法陣はこの屋敷に結界を張っている。それと同時に魔力を吸収する力もある」


 それってつまり。


「『無』の属性で魔法陣を書き換えるってことでいいんですよね」

「うん、そうだよ。……出来そう?」


 なんだろう。言い方が試されてる感じに聞こえる。

『お願いしてもいい?』とか『やってくれるね?』とか言ってきてもいいはず。


 なぜ『出来そう?』って聞くのだろう。

 まるでような言い方。


 なんか、モヤッとする。


 殿下が何を考えてるか知らないけど、私の答えは決まってる。


「私……やります。私にやらせてください」


 それを聞いた殿下は驚いたように目を丸くしたがすぐに元の表情に戻り、頷いた。


「俺とイアン殿でキミを援護する。チャンスは一回。みんな、によろしく頼む」


 作戦??


 そっか、この屋敷に来る前に作戦を立てたのか。


 でも予測にしては……、いや考えるのは後だ。今は魔法陣の傍に行くことだけを考えないと。


 キースさんとオリヴァーさんは短剣を取り出す。キースさんの短剣は水が宿り、オリヴァーさんの短剣は雷が宿った。


 二人の背後に水と雷のドラゴンが見えたような……、


 きっと気のせいだ。


 うん、そういうことにしとこう。



 殿下の話によると、オリヴァーさんとキースさん、それにノア先生がカースさんを引き付ける。


 それでもカースさんは隙を見せないだろう。

 彼には死角がないのだから。


 敵キャラでチートなんて……、羨ましい。私もチート設定だったら良かったのに。


 死角が無いならどうするのか。


 ……なんて私がわかるはずがない。


「おりゃぁぁぁっ!!」


 キースさんは水が宿った短剣をカースさんに振り下ろすが、カースさんは防御魔法を使う。キースさんの魔力が防御魔法により弾かれ、強い風が吹き荒れる。


 油断してると飛ばされそう。


 カースさんがキースさんの攻撃を弾いている隙にオリヴァーさんは短剣で出した雷の塊をカースさん目掛けて飛ばす。


 が、カースさんは雷の塊に気付き、黒い魔法でキースさんを捕える。

 雷の塊に向かってキースさんを飛ばした。


 これって……、闇魔法?

 黒いモヤみたいなのがキースさんの体を包んだかと思ったら軽々とキースさんを投げた。


 キースさんは短剣を水から土魔法を宿らせる。

 雷の塊を短剣で斬り、着地した。


「オリヴァー、どうですかぁ?」

「……ああ、間違いない」


 キースさんはオリヴァーさんに聞いたかと思ったら、オリヴァーさんは納得したように頷いた。


 もしかして、さっきのは様子見……?


 オリヴァーさんは雷から火の魔力を短剣に宿した。

 キースさんは風の魔力を短剣に宿らす。


 二人は構える。


 一体、どうする気なのだろう。


 二人は地を力強く蹴り、一瞬にしてカースさんのすぐ横に。


 瞬間移動? いや、違う。


 二人は火と風の魔法を融合して火の威力を上げた。それと同時に火の中級魔法「エクスプロージョン」を足元に発動して、一瞬にしてカースさんに近付いたんだ。


 二人の息がピッタリ合わないとそんな荒業は成功しない。


 でも、カースさんは微動だにしない。予測出来てるんだろう。


 カースさんが攻撃魔法を唱えようとしたらオリヴァーさんがクスリと笑った。


 ーーその瞬間。


 カースさんを風の刃が襲う。

 キースさんとオリヴァーさんは魔法を発動した素振りを見せなかった。


「今です!」


 その声の主はノア先生。


 風の魔法を発動したのはノア先生だ。


 キースさんとオリヴァーさんが囮になって、油断したところをノア先生が軽く攻める。


 そんな子供騙しなことでも、動きを封じればいいのだから単純な行動に出たんだろう。


「ソフィア嬢!!」


 三人の戦いぶりに感心していたら殿下の声に我に返り、自分がやらないといけないことを思い出した。


 そうだった、急がなくちゃ。


「~~っ!?」


 ……あれ、おかしいな。


「ソフィア嬢?」


 足が竦んで、動けない。


 やるって決めたのに。


 どうしよう。……どうしよう!?


 ここまで来て『怖い』という感情が一気に押し寄せてしまった。


「どうしたんですか!? 早くしないと」


 ノア先生は声を張り上げた。

 焦るのも無理はない。


 死角がないチート設定のカースさんの動きを封じ込めるのは最低五秒が限界。


 その間を狙い、私は一気に駆けぬける。

 魔法陣に近付いたらすぐに魔法陣をかけ直す。


 そういう筋書きだったに違いない。


 誤算があるのだとすれば、私だ。


 重要な時に限って、行動出来ないなんて……。


 内心焦っていると両側から手を握られた。

 左には殿下。右にはイアン様。


 ……まるで、ヒロインの立ち位置にいるみたい。

 そんなこと、ありえないのに。


「やるんだろう?」

「俺が守るから、心配すんな」

「……言葉を間違えてないか? だろう。イアン殿」

「間違えてませんよ。俺が守るんですから」


 二人って仲が良かったのね。

 パチパチと火花のようなのが飛び散ってるけど、きっと私の妄想がそうしてるだけなんだろう。


 前世では、よくこの二人の同人誌を読んでは妄想を繰り返してたもの。


 ……イケメン二人が目の前でイチャついていて、とても萌える。ものすごく尊い。

 眼福です。


 アレン殿下とイアン様のBL妄想を膨らまして気を紛らわそうとしていたけど、まだ震えが止まらない。


 死ぬかもしれないこんな状況だと無理があったか。


 本当にどうしよう。このままじゃ……。


「〜〜っ、がはっ」


 この自分の感情にどう向き合えばいいのかわからずにいたら、カースさんはキースさんとオリヴァーさんを風の魔法で吹き飛ばした。


 二人は床に体を強打した。骨が何本か折れたような音も聞こえたけど、二人は痛みに耐えながら立ち上がろうとしていた。




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