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恐怖で動かない足


 せっかく、三人が作ってくれたチャンスを失ってしまった。

 その原因は私。


 私が負の感情に押しつぶされそうになったから。

 全く動けなかったんだ。やることはハッキリしてるのに、怖くて……。



 次はカースさんの動きを封じるなら、そんな小細工は通用しないだろう。

 警戒してるだろうから。


 ああ、ダメ。余計に足が竦んで動けない。震えが止まらない。


 お願い、動いて。


 ーー動いてよぉ!!! 私の足!!


 涙目になっていると両方から両手を強引に引っ張られた。

 幸いなことに立っているから殿下とイアン様に引っ張られてもちょっとよろめくだけで転ぶことはない。


 というよりも、転ばないようにしっかりと手を握ってくれる。


「もう一度、動きを封じますから。今度こそ失敗しないでくださいね」


 ノア先生が息を切らしながら言う。ノア先生だけじゃない、オリヴァーさんとキースさんも息を切らしてる。ボロボロで限界が近い。


 みんなすごいな。

 死ぬかもしれないのに、勇敢に挑むんだもん。私は『やるぞ!』と気合いは入るのに体が思うように動かない。


「……皆さんは怖いと思わないんでしょうか」


 ボソッと呟けば、すぐ横にいる二人は私の呟きを聞き逃してはいなかったらしく、答えてくれた。


「あぁ? 怖いに決まってるじゃん」

「……それでもやらないといけないからね」

「まぁ。無鉄砲だとは思うけど」

「俺の護衛騎士が頑張ってくれてるのに、逃げるなんて出来ないから」


 イアン様が当たり前だと言わんばかりに呆れてると、殿下は困ったように微笑んだ。


 やらないといけない……かぁ。


 確かに、『出来る』『出来ない』以前にやらないといけないんだ。


 私も『やらせてください』と言ってしまった。自分の言葉は責任持たないといけないよね。


 落ち着け、私のやることはただ一つなんだ。


 怖いのは当たり前。


 怖いと思うのは私だけじゃないんだから。


「今ですよ!!」


 ノア先生の声に、我に返った私は殿下とイアン様の手を力強く握った。


「い、行きます!」


 ああ、どうしよう。声も体も震える。


 私の精一杯の言葉に殿下とイアン様は一瞬固まって、クスリと笑った。


 私と殿下とイアン様は同時に走り出す。


 魔力がぶつかり合う衝撃は一瞬の気を許せば吹き飛ばされそう。


 それでも走りを止めない。止めたら逆に危険だから。


 壁に描かれてる魔法陣の元にたどり着くと殿下とイアン様の手を放した。

 両手を魔法陣に当てる。


 そして、魔法陣を書き換えようとしたところで一番大事なことに気がついた。


 そう、それは。


 書き換え方がわからないということ。


 ど、どうしよう……。ここまで来て!?


 とりあえず落ち着け、前世の記憶を遡ってゲームで見た魔法陣をイメージしてみよう。


 私はゆっくりと瞼を閉じた。


 イメージした魔法陣を思い浮かべて両手に集中する。


 これで良いのかな……。


 不安しかないけど、恐る恐る目を開ける。


 さっきまでの魔法陣とは違う魔法陣? が、描かれていた。


 いや、そもそも魔法陣と呼べるものなのか、怪しい。


 それは、円形の中にカビバラらしき絵が。


 待って、私なにを想像した?


 前世のゲームに出てきた魔法陣をイメージしたはず。


 あっ、そのゲームのカビバラをイメージしたキャラがいたんだわ。


 私の推しキャラでとっても可愛い!!


 名前は『ビビ』だったかな。

 人間の言葉がわかって、人間の言葉で話すんだよね。語尾に『〜〜ッピ』って付けてるのが可愛い。


 そのキャラを無意識にイメージしてしまったから魔法陣とカビバラが混ざったような魔法陣? と、なってしまった。


 ど、どうしよう。と内心焦っていたら魔法陣が黄色く光だした。


 そして、光りだした魔法陣から電撃が走り、電光石火でんこうせっかのようにものすごい勢いで雷がカースさんに直撃した。


 私自身、動体視力が無いからなにが起こったのか、状況が掴めていなかった。


 焦げて灰になったカースさんを見て、背筋が凍った。


 魔法陣を書き換えただけなのに、こんな魔法を発動してしまったのだ。

 一歩間違えれば自分だけじゃない、周りの人達が死ぬってこともありえたはず。


 書き換えたからなのか屋敷は消え、森の中にいた。


 どうやら屋敷があった場所は森の中だったらしい。


 私は瞼を閉じる。そこからはよく覚えていない。



 次に瞼を開くと、私が愛用しているベッドで寝ていたんだから。








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