今から二週間前。
俺は奇妙な夢を見たんだ。それは前にも見たことがある。だが、そこは曖昧だ。
なにせ夢の世界はとてもぼんやりとしている。
その夢はベネチアンマスクをつけている男にソフィア嬢と、幼い子供達が魔法陣の中にいるというもの。
ソフィア嬢は堂々とした振る舞いをしていたが、その態度は好ましくなかった。
というのも、横暴な発言が目立つんだ。
それは俺・が・知・っ・て・る・ソフィア嬢ではなかった。
その夢を見始めるようになってから毎晩のように夢を見るようになった。その内容もはっきりとまではいかないが、覚えている。
今までの夢の内容を整理すると、俺は何回も同じ人生を歩んでいるということ。それも一度や二度じゃない。もう何十回、何百回と繰り返している。
そして、必ずソフィア嬢を処刑したり、追放していた。
その夢のソフィア嬢は現実のソフィア嬢とは真逆の性格だったんだ。
そんなソフィア嬢を嫌っていたが、俺の不注意でつけてしまった傷の責任を取るために婚約した。
ソフィア嬢の振る舞いは目に余るものが多かったので何回も指摘したのだが、ソフィア嬢は斜め横に解釈してしまい拗れることが多かった。
理由まで説明したのに、だ。彼女の言い分を聞くと「わたくしがお嫌いなのですか!?」「貴族の血が流れてないから殿下はわたくしに冷たくされるのですね!? わたくしはこんなにも愛しているというのに」と、このありさま。
そもそも王族にそんな口の利き方したらすぐに侮辱罪になりかねないのだが、俺はいつも二人になった時に指摘をする。
なので、聞いている人が居ないから罪になることはない。
ソフィア嬢のことで頭を悩ましていた。
そんなある日のこと。
気品は無いものの、何事も一生懸命に取り組み、笑顔が素敵な女性に出会った。
運命の人とは、こういう人のことを言うのだろう。
その時に確信した。だが、ソフィア嬢は俺がその子に気があると疑った。
俺に直接言うならまだ良かったのだが、ソフィア嬢はその子に陰湿な嫌がらせを始めたんだ。
命に関わることをしようとしたソフィア嬢を俺は殺した。息絶える間際、俺に呪いの言葉を浴びせた。
それからだ。
俺が同じ人生を歩み始めたのは。
前の記憶は、成長につれ不意に思い出す。
思い出した時にはすでに遅いということが何回もあった。
それが何十回も続いたある日、ソフィア嬢がこの無限に繰り返される人生と関係があると考えた。
そこで俺はこんな約束をした。「約束してほしい。人の痛みや苦しみを理解し、耳を傾けられるような貴婦人になってほしい」
それは勝手な願いだ。
ソフィア嬢は、自分に傷をつけ、婚約させられたのになにを言うのだろう。と、怒るのではないかと内心ヒヤヒヤしたが、これ以上ソフィア嬢を好き勝手にさせる訳にはいかなかった。
ソフィア嬢は唖然とした後「そんなことですの?」
と、そんなことは簡単だとでも思ったのだろう。
だけど、きっと本人は気付いていない。思いやりがないということに。
結局は一度もその約束を守らずに禁忌を犯してしまった。
全くもって救いようがない。
その夢は妙にリアルだから、現実と夢の区別が付かなくなりそうだ。
だが、今回のあの一件でこれは予知夢なのではと思い始めた。
あの一件とは、カース殿が犯した一件だ。俺は何が起こるのか夢で見ていたから作戦も立てやすかった。
これはたまたまなのだろう。そう思ったが、たまたまにしてはあんなにうまくいくとは思わなかった。
思わぬハプニングはあった。
それは、ソフィア嬢の行動だ。
彼女の行動は全く、夢とは違っていたのだから。
俺はソフィア嬢を利用するために婚約しようとした。
でも、ソフィア嬢は婚約を望まない。
それは俺のことが嫌いだから、ということでは無さそうだ。
最初は恋をしてようがしてまいが、嫌われようがなんだって良かったんだ。婚約をして、結婚をして仮面夫婦になろうが。
少なくとも今はソフィア嬢に嫌われたくないと思ってる。だからこそ、ソフィア嬢の気持ちを尊重したい。
この感情は恋というよりも友に近いだろうが、ソフィア嬢とほとんど歳が変わらない異性が彼女に近付いて仲良く話してるのを見ると邪魔してしまいたくなる。
恋人でもないのに、不思議だ。
それに彼女と居ると楽しいし、面白い。
なによりもドジをすると少し頬を染めて照れるところが可愛い。
俺のことを警戒しているが、それも最近では少しだけ警戒を解いてくれているから少しは仲良くなっているんだろう。
ソフィア嬢とノア殿がカース殿のことに関して話してるのを聞きながら、そんなことを思っていたんだ。
残酷な予知夢を見ないことを祈ろう。
ソフィア嬢は良くも悪くも今のままが一番だ。