いろいろあって俺たちは、とある高級マンションに引っ越すことになった。隣人との騒音とかのトラブルがあったのも理由の一つだが、メイは最初から引っ越すつもりであったらしい。ご主人様をずっとこんなぼろいところに住まわせておくわけにはいかないとかなんとか言っていた。前の家でも俺にとっては十分すぎる家だったのだが、メイはお金を貯めたらすぐに引っ越すつもりであったようだ。
おかげですぐに引っ越せてよかった。世の中にはヤバいやつもいたものだ。俺自身のことなら耐えられても、メイにまで被害が及べばさすがに許せない。あの隣人、メイのことをいやらしい目でずっと見ていたからな。何かが起こる前に引っ越せたので、ようやく安心できる。
それにしても、メイはいつのまにかとんでもない金を稼いでいたようだ。その有り余るお金を使った結果、俺たちの新居は超高級マンションの最上階だ。
正直、俺はこんないろんな意味で高いところは落ち着かないのだが……。
しかし、メイが引っ越すというのならば俺はついていくしかない。何故なら俺は、彼女に住まわせてもらっているだけのただのヒモのようなものだからだ。早く自立しなければ。
今度の引っ越しは特に問題なかった。無職でも、金さえあれば家を借りることなど簡単らしい。保証人代行会社とかもあるし。
ちなみにここを借りる時の名義は、俺の名前になっている。どうも、メイは戸籍がないようなのだ。複雑な家庭の事情ってやつだろうか? なので、メイが使っている証券口座も実は俺の名義になっている。万が一彼女が資金運用に失敗して借金を負うことになったら、その借金は俺のものという事になる。
ま、十分贅沢な暮らしをさせてもらったし、もともとは死ぬつもりだったのだ。その時はその時だ。彼女を恨むつもりもない。もっとも、今のところ彼女が失敗するとは思えないが……。
新しい家はとても豪華だ。そして広い。広すぎる。二人で暮らすには無駄すぎる広さだ。家が広いせいで、メイは掃除が少し大変そうである。だから俺はもっと狭いところでいいと言ったのに。
「ご主人様、新しく人を雇おうかと思います。このままではご主人様のお世話に支障があります。というか、実はもう雇いました。すでに連れてきております」
雇った? いつのまに。さすがメイ、仕事が早い。
扉を開けて部屋にやってきたのは、黒髪で活発そうな雰囲気の美女だ。大学生くらいだろうか? ちなみに胸は大きい。彼女もメイと同じく、メイド服を着ている。
「初めましてご主人様。新しく雇われた新人の
「彼女ほどの逸材を見つけるのは大変でした。ご主人様に仕えるには、容姿、性格、そしてもちろん、恋人がいない事が求められます。愛は、ただ一人ご主人様だけに向けられたものでなければなりません。破格の条件で募集したのでたくさんの応募者がいましたが、すべて満たしたのは彼女だけでした。本当はもっとたくさん雇って、ご主人様のハーレムを作りたかったのですが……なかなか基準を満たす娘がいなくて。今後も継続的に、ご主人様にふさわしいメイドを探してまいります」
「そんなにいらないって。俺にはメイだけ居てくれれば十分だからさ」
というか、本当はメイ一人でも持て余している。誰か一人に仕える人物として、彼女はあまりにもハイスペックすぎて色々もったいない。もし彼女が何かしらの会社でも作れば、あっという間に大企業に化けるだろう。
「ご主人様は謙虚でいらっしゃいますね。しかし私一人で満足されては困ります。最低でも、私レベルならば100人は囲っていただかないと」
メイレベルが100人も!? 一人でも持て余しているのに、メイが100人もいたらどうなるのか想像もつかない。ただ分るのは、俺にはキャパオーバーであるということだ。無理無理。
「なあ、俺はメイだけ居れば他にはいらないからさ、唯奈には帰ってもらうというのは……家事とか、俺も手伝うからさ」
思えば家にいる間、メイは色々働いているのに俺だけずっとだらだら過ごしていることに抵抗があったのだ。ちょっとした掃除くらい、俺にもさせてほしい。
「ダメ! お願いです! 私を雇ってください! なんでもしますから!」
唯奈が突然、大きな声で必死に言った。
「彼女は妹の心臓移植手術のために、大金が必要なようです。ここで雇ってもらえなければ、妹さんはもう……。しかし、ご主人様が気に入らないというのなら仕方ありませんね。解雇するしか……」
「そ、そんな……お願いです! やらせてください!」
「わかったわかった、雇う、雇うって!」
そんなこと言われたら、誰も断れないだろ。
こうして、我が家に新しいメイドが増えたのだった。