俺の大切な幼馴染の唯奈が、最近怪しい。彼女は最近急におしゃれな服を着るようになり、美しくなった。そして、妙に仕草がセクシーになったのだ。
最近の唯奈、エロくないかと大学で皆が言っている。俺もそう思う。彼氏でもできたんじゃないかと言うやつもいる。
そしてもう一つ言われているのが――怪しい夜のバイトをしているんじゃないかという噂だ。最近の彼女は妙に高い物を身に着けていることが多い。きっと、危険なバイトをしているに違いない。
止めなくては。俺の心に、正義の火が灯った。
しばらくの間、俺は彼女の周辺を探った。まずは最近の交友関係だ。昔の唯奈のことなら、幼馴染だった俺はなんでも知っているつもりだ。だが、最近の彼女のことは何も分からない。
誰と遊んでいるのか、どんなバイトをしているのか。
で、周囲に話を聞いて回ったところ、この大学外に友人らしい人物がいることが分かった。金髪で、それはそれは美しい少女だそうだ。唯奈より少し年下の女性らしい。あまりにも美人だから、唯奈に紹介してほしいと言ったが断られたそうだ。なので、その金髪の美人がどこの誰かなのかは分からない。
俺の知らない友人か。怪しいバイトと関係があるかもしれない。
唯奈の後を数日つけたところ、頻繁にとあるマンションに出入りしている事を突き止めた。都心の一等地に立つ高級マンションだ。唯奈がこんな高級マンションに用があるとは思えない。ここで怪しいバイトを行っているとしか思えない。数日追跡したが、ここ以外に怪しい場所に寄っている様子はなかった。
マンションの中まで追跡したかったが、セキュリティーが高くマンションの中までは入れない。
しかたがないので、しばらくこのマンションを張ることにした。しばらくたったある日、唯奈が怪しい男と一緒に出てきた。そこには噂の金髪美少女もいる。噂通り本当に美人だ。きっと彼女も悪い男に騙されているに違いない。一緒に助けよう。もし助けたら、この子も俺の物になるかも。やる気が増してきた。
とにかくあの怪しい男が、唯奈と金髪の美少女を金でたぶらかしているに違いない。あるいは弱みでも握って、脅しているのか。未来の俺の女たちになんてことを。怒りが込み上げてきた俺は、拳を力強く握りしめた。
見ていると、唯奈が怪しい男に抱き着いている。もう見ていられなくなった俺は飛び出した。
「唯奈から離れろクソ野郎!」
もう殴る事しか考えられない。これは正義の拳だ。唯奈を悪い男から守るためだ。飛び出した勢いのまま助走をつける。怪しい男は、状況がよくわかっていないのか、ぽかんとしている。
俺は走る勢いが乗った拳を、怪しい男に振り下ろし――
「っっっ痛った!!!!」
殴った拳が、信じられないほど痛い。まるで鉄の塊を全力で殴ったみたいだ。信じられないほど硬い。俺が殴ったはずの男は、相変わらずきょとんとしており、状況が理解できていないようだ。特に痛そうにしているわけではない。
そして、いつの間にか男と俺の間に金髪の美少女がいた。彼女は俺が殴ろうとしていた場所に、額を突き出している。どうやら、俺が殴ったのは彼女の額らしい。
「なんで急に割って入った! そいつは悪い奴なんだ!」
「ご主人様が悪い奴、ですか? いったい何をしたと言うのです?」
「そいつはな、金に物を言わせて、唯奈にひどい事をしているんだ!」
「ひどい事ですか? そのような事実はありませんが」
「それはあんたが知らないだけだ!」
「では、貴方は知っていると? 証拠でもあるのです? あるいは唯奈さんがそう言いましたか?」
「いや……」
俺は言葉に詰まった。証拠はない。唯奈も、そんなことは言っていなかった。
「あのですね、今悪い事をしているのは貴方ですよ? いいですか、法治国家で言うところの悪い事というのは、法を犯すことです。貴方は確たる証拠もないのに、いきなりご主人様を悪と決めつけ、殴ろうとしたのです。これが悪でなくて、なんだというのです?」
「――違う! そいつは悪い奴なんだ! なんとしてでも、唯奈を引き離さないといけないんだ! 君もそんな奴をかばうのはすぐにやめた方がいい!」
「それは貴方がそう思いたいだけでしょう。もし本当にご主人様が悪いというのなら、警察に連絡するべきでした。あるいは弁護士に。そうすれば、悪には法の裁きが下るはずです。あるいはもし法律もおかしいと思うのならば、著名でも集めて、法の改正を求めるべきです。しかし貴方はそうではなく、暴力で解決しようとした。これが悪でなくて何だというのです? しかも、殴ったところで貴方がすっきりするだけで、何も解決はしない。貴方は何がしたかったのです? ご主人様がムカついたから、殴りたかっただけでしょう?」
「っ……」
俺は金髪の美少女にまくしたてられ、何も言い返せなくなってしまった。
「私は納得してやってるの。邪魔しないでくれる? 私にはお金が必要なの。それに……」
唯奈は妙に熱っぽい目で怪しい男を見つめている。仕草もやたら艶めかしい。なんだか嫌な感じだ。
「金なら俺が……」
「あなたには無理よ。妹の心臓手術費、いくら必要だと思ってるの?」
「いくらなんだ? 俺もバイトするからさ」
「3000万」
「――はっはっはっは、ついに悪事が分かったぞ。そんな大金、こんなさえない男が持っているわけないだろ! 目を覚ませ!」
「何言ってるの? すでにかなりもらったけど?」
「くそ、やっぱりそこの男は悪い奴だ! きっと、悪い事をして稼いだ金に違いない! そんな金で唯奈を縛るなんて! だいたいそんなにお金があるなら、手術費くらい出してやればいいだろ!」