「――くそ、やっぱりそこの男は悪い奴だ! きっと、悪い事をして稼いだ金に違いない! そんな金で唯奈を縛るなんて! だいたいそんなにお金があるなら、手術費くらい出してやればいいだろ!」
唯奈の知り合いと思われる男が叫んだ。
……金を持っているのはメイだから、俺に決定権はないんだよな。そりゃ、妹の手術費の為にお金を稼いでいるなんて聞いたら、代わりに出してあげたくなるけど。
「ご主人様は、犯罪などしておりません。悪い事してお金を稼いだなど、言いがかりですよ。大体、ご主人様は何をしても許してくれそうなエロメイドと一緒に寝ても、手を出さないようなヘタレです。ご主人様は犯罪などできるような方ではございません。私からしなければ、キスもしないような方なのですよ」
「ちょ、メイ!? こんなところで何言ってんの!?」
メイの発言を聞き、唯奈の知り合いと思われる男は顔を赤く染めた。すごく怒っているっぽい。
「唯奈だけではなく、こんな少女にまで手にかけるとは! なんて酷い男なんだ!」
「あの、聞いてました? ご主人様は全く手を出してきませんでした。私から手を出したのです。無防備に寝ていたご主人様に、私が顔を近づけ――」
「わー! やめいやめい! ま、まあとにかく、俺たちは唯奈さんを無理やり働かせたりなんてしてないから。し、してないよね?」
「はい、もちろんですご主人様。すべては唯奈の意思でございます」
う、うーん、メイが調教をしていなければ、俺も自信をもって彼女の意思であると言い張るんだが……俺たちが悪い事はしていないと、妙に言い切りにくいんだよな……。
「ま、まあ話があるなら二人で話し合ってくれ。辞めるなら辞めるでいいからさ。ね? じゃ、いこうメイ」
妙なトラブルに巻き込まれてしまったけど、あとは二人の話し合いで解決されるだろう。たぶん。
俺はメイを連れて歩き出そうとした。しかし、メイの足は動かない。
「お待ちくださいご主人様。一つ聞いておきたいことがあります」
「聞いておきたいこと?」
「はい」
そういうと、メイは唯奈の知り合いの男の方を向いた。
「貴方は、お金があるなら手術費くらい出してやればいい、そう言いましたね?」
「ああ」
「ならば質問です。貴方は、服を何着お持ちですか?」
「服? 4、50着くらいかな」
男は質問の意図が分らなかったのか、首を傾げながらも答えた。
「すべての服を着ますか?」
「いや……買ったけど着ていない服もあるけど……」
「ならばなぜ、その服を寄付しないのでしょう?」
「へ?」
「世の中には、着る物にも困っている方々がたくさんいらっしゃいます。何故貴方はその方たちに寄付しないのですか?」
「いや、そんなこと言われても。俺が着ようと思って買った服だし――」
「では質問を変えます。今、貴方の財布の中にはいくら入っていますか?」
「2万くらいかな」
「なぜ、そのお金を寄付しないのです? そのお金があれば、異国の子供たちがたくさん助かるというのに」
「そんな事急に言われたって困る。これは俺の金だ。俺が何に使ったっていいだろ」
「なるほど。では、私たちが稼いだお金を、私たちが自由に使ってもいいですよね? 自分は出来ないくせに、他人に施しを要求するのはどうかと思いますよ」
メイに言い負かされ、男はしばし黙った。
「……わかった。じゃあせめて、唯奈にいかがわしい真似はさせないと約束してくれ」
「いかがわしい? もちろんさせますが」
「っ! やっぱり悪人だな! 唯奈! こんなところで働くのはよせ!」
「あのですね、たぐいまれな知識や技術でも無ければ、まともな手段で大金を稼ぐ方法などありはしないんですよ。もしあるならそちらで働けばいい。私たちのところをやめたって、結局ところ、体を売る事になるだけです。それとも、貴方が臓器でも売りますか? 本気ならば手配しますが」
「く、クソ!」
男はようやく諦めたようであった。
「聞きたいことは聞きました。ご主人様、もう行きましょう。早く用事を済ませて、今日は唯奈さんにいっぱいご奉仕させましょう」
め、メイ!? まだ唯奈の知り合いの男がそこにいるのに、なんでそんなこと言うの!?
案の定、話を聞いていた男はぶち切れし、殴りかかってきた。しかし、今回も間に入ったメイが、額で拳を受け止める。
「いっってえ!」
なぜか殴った方の男が、異様に痛がる。メイの額はどんな硬さなんだ?
「知っていますか? 一般人でも、現行犯なら逮捕できるんです。では警察に行きましょうか。暴行の現行犯で逮捕します」
メイは男の腕をひねりあげ、その状態でどこかへ歩いていく。
「お二人は私の事は気にせずに、楽しいひと時を過ごしてください! 私はご主人様に殴りかかるような悪人を、合法的に成敗してきます!」
そう言って、メイは消えていった。
う、うーん、これでよかったのだろうか?