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第14話 同窓会

 そして、ついに来てしまった同窓会当日。メイに身だしなみを完璧に整えられ、会場に向かう。集合場所は大きめの居酒屋だ。


 会場へは車で向かう。メイが持っている黒の超高級車だ。運転はメイである。なんと、メイは車の免許を持っていたのだ! その名刺には綿貫芽衣わたぬきめいと書かれていた。メイはこの免許書を俺に見せた後、しっかり作りこんであるので、調べられなければバレません。ご安心くださいと言った。


 ……冗談だよな? え、偽造? まさかな。


 メイの高級車で同窓会に行くのはあまりにも目立つので、少し離れた場所で止めてもらう。ちなみに、メイの運転は完璧であった。やはり、偽造は冗談だったのだろう、うん。


「ご主人様、少々お待ちを。服装が乱れております」

「え、ああ」


 メイは俺に少し身を寄せ、俺の服を整える。そして、突然顔を近づけ、いきなりのキス。


「えっ、わっ」

「ふふふ、いってらっしゃいませ」


 メイはそういうと、俺を同窓会に送り出した。




 会場の中に入ると、すでに半分くらいの席が埋まっていた。なんとなく見覚えのあるやつもいれば、全く誰だか分からない奴もいる。特に女性はさっぱり分からない。中学生の頃は化粧などしていなかったが、今は全員化粧をしている。これでは、誰なのか思い出すのは難しい。


 しかし、顔が分る女性もいる。この間ばったり会ってしまい、この同窓会に来ることになってしまった原因、東 京香だ。彼女は目ざとく俺を見つけ、そばまでやってきた。


「山中君、来てくれたんだね」

「もちろん」


 本当は、来るかどうか悩んだのは内緒だ。俺と東さんは近く会話がてら近くの席に座る。そしてたわいもない会話を繰り広げる。すると、そこに別の人物がやってきた。


 最悪だ。コイツとは顔を合わせたくなかった。しかし、お前もきてしまったのか、向井。


「東さん、お久しぶりです。元気にしてらっしゃいますか」


 向井は紳士を装いながら東さんに話しかけてきた。


「あ、向井君、来てくれたんだね」

「もちろんです。……お前も来たのか、山中。てっきり、どこかで野垂れ死んでいると思ったぜ。よく顔を出せたな」


 向井は俺をちらりと一瞥し、俺を見下すように言った。


「まあな」


 俺は精一杯強がり、なんとか一言だけ返した。俺はこいつが苦手だ。中学の頃は俺をイジメてきたし、大人になってからもこいつにいい思い出がない。あまり会話したくない。


 向こうもそう思ったのか、特にこれ以上俺に話しかける事もなくそのかわり東さんに積極的に話しかけている。


 東さんは奴の自慢話を愛想笑いで躱しているようであった。そうしているうちに参加者がどんどん集まり、同窓会が始まる時刻となった。


 幹事の男であるかつてのクラス委員長が乾杯の挨拶を行い、同窓会が始まる。料理とお酒が運ばれてくる。


「みんな、あらためて自己紹介をしようよ。みんなの近況も知りたいしさ。じゃあまずは俺から言うわ」


 ある程度酒と食事が進んだタイミングで、委員長はそういった。そして名前を名乗り今の仕事を明かした。大手企業の会社員をやっているらしい。そこそこ出世しているようだ。それに続き、他のクラスメイトたちも次々と名乗っていく。親の後を継いで自営業をしているものや会社員が多い。


 しかし、中には起業し、社長になったものもいた。そのときは同窓会のメンバーがどよめいた。企業して社長になっていたのは、俺と同じくクラスでは目立たないタイプだったからだ。


 それに続き、俺の近くに座っていた東さんも自己紹介をした。女子アナウンサーです、と。もちろん全員知っている事実ではあったが、同窓会は大盛り上がりだ。おそらくこの同窓会に参加した元クラスメイト達は、彼女を見たくて来たのではなかろうか。


 その後同じく近くに座っていた向井が自己紹介をした。次期社長である、と。しかし、東さんの後では霞んだのか、それほど盛り上がりはしなかった。それに、中学生の頃から俺は祖父の後を継いで社長になるとずっと言っていた。みんな知っていたのだ。


 思ったより自分の自己紹介がウケなかったのがムカついたのか、少しイラついたように向井は俺に自己紹介を促してきた。


「ほら、次はお前の番だぞ山中。お前、うちの会社を首になった後、今何してるんだ? ニートか?」


 うっ。痛いところを突いてきやがった。俺はもともと、コイツの親族が経営している会社に勤めていた。しかしそこを首になり、現在はヒモである。だがそんなことはここでは言いたくない。なんとかひねり出した答えが、


「と、投資家かな……」

「投資家ぁ? おいおい、正直に答えろよ、ニートですって。それともアルバイトか? ぷっ、投資家ってお前――」

「やはり、そうだったのか!」


 今にも向井にバカにされそうだったその時、起業して社長になったという同級生は突然大きな声を出した。


「山中樹という名には見覚えがあった! もしかしてと思っていたが、やはりそうなんだな! 天才投資家山中樹! お前の事だったとは! 会えてうれしい!」


 そういうと、彼は俺に握手を求めてきた。俺は思わず手を握ってしまう。


「おい、急にどうしたんだ?」

「みんな知らないのか!? 山中樹といえば、今話題の超天才投資家だ! 彼が買った株は、軒並みすべて上昇するんだ。彼が買っていると噂があるだけで、株価が大きく変動するくらいだぞ」


 ……え?

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