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第17話 中学の同級生、向井その2

 もしかしたら、山中は成功者ではないか。そんな話になった時、同窓会に参加していたクラスメイト達は色めき立った。とくに女性陣だ。年頃の女性たちは虎視眈々と、常に成功者を狙っているという事を俺はよく知っている。


 成功者と結ばれて、自分も成功者となる。そういう妄想を抱いている女性は多い。その手の女性に付きまとわれた経験が俺にはある。あほらしい。成功者が、お前らのような下層のものと結ばれることなどありはしないのに。せいぜい一晩のお遊びならあるいはと言ったところか。


 他の有象無象はどうでもいい。だが、どうして、どうして東 京香も山中に興味ありそうなのだ!? 君はそんな似非成功者よりも、真の成功者である俺に興味を持つべきだ!


 山中は複数の同級生に詰め寄られ、しどろもどろになっている。答えに窮したあいつは、トイレに席を立った。山中がその場を少し離れる。それでも女性たちの話題は山中の事で持ち切りだ。この同窓会は、実につまらない。イライラする。


 まあいい。俺の今日の目的は東 京香をホテルに連れ込むことだけだ。さっさと用を済ませてこんな会、抜け出してしまおう。そう思ったのだが、いつの間にか東 京香がいなくなっている。会場を見回すがどこにもいない。トイレだろうか?


 しばらく待つが戻って来ない。どうでもいいが、山中もだ。時間の流れが妙に遅く感じる。何度も左腕につけてある高級時計で時間を確認する。5分だっても戻って来ず、10分たっても戻って来ない。俺以外の人間は二人が戻ってきていないことに特に気をとめる事もなく、談笑している。なんだか嫌な予感がする。


 まるで山中の事が気になっているみたいで嫌だが、あまりに戻って来ないのでトイレに確認に向かう。すると、ちょうどそのタイミングでトイレの方から京香と山中が出てきた。なんと、京香は山中の腕をつかみ、引っ張っているではないか。しかも引っ張っている方向は、こちらの会場側ではなく店の出口方向だ。


「どこへいこうとしている?」

「あはは、む、向井君。いや、ちょっとお酒を飲み過ぎたから、樹君と外で風に当たろうかと」

「ほう? それなら俺もついていいか?」

「ううん、もう酔いが覚めたからやっぱり戻るね」


 京香は慌てて山中の腕を離し、会場に戻っていく。山中もそれに続く。俺は釈然としないものを感じながらも、二人の後を追って席に戻る。


 二人が席を抜けた間に山中への熱が冷めたのか、山中への質問攻めは減った。それはいい。それはいいんだが、山中と京香の二人の距離が妙に気になる。


 山中は京香の顔、特に唇を頻繁に見つめている。京香の方は、山中を見つめ、微笑みを浮かべていることが多い。


 二人がいなかった時間は、せいぜい10分程度だ。何かあったとは思えないが、なんとなく二人の間の空気が変った気がする。ムカムカする。


 相変わらず、京香は俺が口説いても全く手ごたえがない。暖簾に腕押し状態だ。


 そんな状態で、どんどん時間だけが過ぎていく。そろそろこの同窓会も終わろうとしている。


 そんな時、この同窓会の会場にとんでもない美人が突如やってきた。金髪で、スーツを着ている。


「失礼します。山中を迎えに参りました」

「山中を? 失礼ですが、あなたは?」

「私は山中の運転手やお金の管理をしている者です。秘書のようなものだと思っていただければ」


 山中の秘書だと!? 嘘だ! 奴にこんな美女が付き添うわけがない!


「め、メイ!? どうしてここに!?」

「お迎えに上がりました。そろそろ終わるころかと思いまして。それとも、二次会も参加されますか? それでしたら二次会会場まで送りますが」


 山中は周囲を見渡した。山中と俺以外の男たちは新たに現れた金髪美女を凝視している。


「えー……あー……、帰ろうかな」

「かしこまりました」

「じゃあ俺そろそろ帰るから、皆またな」


 山中がそういうと、二人は会場から出ていこうとする。


「ちょっと待った! その美人を紹介してから帰れ!」


 同級生の誰かが叫ぶが、山中は軽く手を振り去っていく。そして、去り際を寂しそうに見つめる京香。


 色々腹が立つことが多かったが、とりあえず邪魔者は消えた。二次会でじっくり京香を口説き、ホテルへ連れていければこのイライラもおさまるだろう。


 会場の窓の外を見ると、超高級車に乗った二人が会場から去っていく姿が見える。


「あっ!」

「どうした?」

「山中から同窓会の会費もらうの忘れてた!」

「へ、金持ちのふりしてたが、会費もケチるような奴じゃねえか。ろくでもないな」


 幹事の一人と同級生の一人が会話している。何人かのモテなさそうな男たちが同意している。俺も同意見だが、京香の前なので、何も言わないでおく。


「まあまあ、俺が回収を忘れただけだから。連絡先もわかってるし、後でもらうよ。今日のところは俺が立て替えるからさ。とりあえずもう出ようか」


 そうして幹事の委員長は皆からお金を集め、支払いに行く。


「え!? もう払ってある!? それも全員分!?」

「おい、どうした? 委員長」

「それが、もうすでに会計が済んでいるみたいなんだ。それも全員分。さっきの美人秘書が全部払っていったんだって。領収書は山中で」

「まじかよ! じゃあもしかして、今日は無料!?」

「……みたいだな。会費は皆に返すよ」

「よっしゃー! 山中サイコー!」


 同級生たちはテンションがあがり、山中の名を叫んでいる。さっきまで叩いていた奴もだ。


 ちっ、こんな安そうな店で奢ったぐらいで調子に乗りやがって。実につまらん。さっさと二次会に行こう。


「じゃあみんな、次は二次会へ」

「あ、ごめんなさい、私は明日の朝早いから」

「そっかー、京香は朝のニュースがあるもんね。またねー」


 京香も帰ってしまうだと!? じゃあ俺はきょう何のためにここに来たんだ。俺は帰ろうとする彼女を追いかける。


「待ってくれ」

「どうしたの、向井君」

「この後二人だけで飲みに行かないか? 時間は取らせないから」

「ごめんなさい、本当に明日早いの」

「じゃ、じゃあ今度飯でも――」

「ごめんなさい。無理」


 それだけ言って、京香は立ち去る。


 クソが!!

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