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第60話 美人局①

 翌日、俺は桜川に会った。

 藤堂美紀のことを報告するためだ。

 いつもの喫茶店に行くと、桜川はすでに来ていた。

「なんとか解決したよ」

 俺は桜川にだいたいのことを話した。

「そんなことになったんですね」

 桜川はホッとしたよう感じではあった。

「そうなんだ。とりあえずこれで友達の藤堂さんはルキアにフーゾクで働けって言われることはなくなるよ」

「そうですね。でも、これで良かったんでしょうか?」

 桜川としては終わったという安堵感はあるものの、スッキリしない気持ちだろう。

 なにせ被害者と思っていた友達が、実は加害者だったのだ。

「良かったかどうかはわからないけどね。でも、当初の目的は達したわけだし、良しとしようよ」

 俺としてもスッキリした気分ではないが、これ以上関わりたいとも思わない。

「なんだか、あのルキアってホストがかわいそうですね」

 と桜川はボソッと言った。

「それは俺も思うけど、そういうことも含めての仕事なのかもね」

 俺もルキアには同情はするが、大きく稼げる仕事にはそれ相応のリスクもあるってことだろう。それを承知でルキアもホストをやっていたはずだ。

「ところで藤堂さんとは今後も友達を続けるの?」

「いえ、もう無理だと思います。そういうことがわかった以上は、これまでどおり仲良くって出来そうにないですから」

「それもそうだね」

 俺は桜川がそう言ってくれて、少しホッとした。


 その帰り、俺が家に向かっていると珍宝院が現れた。

「解決できて良かったの」

 珍宝院はそう言った。

「まぁ、良かったと言えば、良かったのかもしれませんが、なんかスッキリしませんよ」

「どの部分がスッキリせんのじゃ?」

「どの部分って、それは結局ルキアがお金を被ったところです。藤堂美紀はお金を支払わずに済みましたからね。あんなことをしておきながら、なんの罰も受けていないのがどうも……」

「確かに、その部分がひっかかるじゃろうな。だが、考えてみろ。藤堂って女は得をしたのか? なにか今回のことで得るものはあったのか?」

 珍宝院にそう訊かれて、俺は考えてみたが、答えは思い浮かばなかった。

「どうじゃ?」

「そうですね。例えば結局ホストクラブでただで飲み食いできたとか」

「ほう、それがあの女が得たものか。確かに得たと言えば得たのかもしれん。だが、あの女は別にそのホストクラブに行きたくて行っていたわけじゃない。それって得をしたのか?」

「得をしたんじゃないんですか?」

「お前は行きたくもない職場の飲み会に誘われて嬉しいか?」

「いえ」

「上司が全部奢ってくれてただで飲み食いできて得したと思うか?」

「思いませんよ。そんなのはいいから早く帰りたいです」

「そうじゃろ。あの女も同じ気持ちだったじゃろ。男に頼まれてホストクラブに行き、飲み食いしていたわけじゃ。男の復讐のためにな」

「それだったら楽しくないですよね。むしろ苦痛かもしれません」

「そうじゃろ」

「でも、藤堂からしたら彼氏の復讐って目的は果たせたから良かったんじゃないんですか?」

「そうかの? 復讐を果たしてあの女はなにかいいことあったのか?」

「え、それは……」

「ないじゃろ。復讐なんてものはそんなもんじゃ。ましてや今回は本人の復讐じゃないしな」

「そうですね」

「さあ、じゃあこれを飲め」

 珍宝院はいつものビンを出した。中にはなみなみと黄色い液体が入っている。

 俺はそれを受け取り一気に飲んだ。

「ところで、まだ終わりじゃないぞ」

「そうなんですか?」

「そうじゃ。あのヒリュウと藤堂がなにか企んでいるのはすでに知ってるじゃろ」

「あ、そうでした。美人局つつもたせですね」

「うむ。放置していたらろくなことにならんからな」

「でも、どうすればいいですか?」

「藤堂にあの地味な中年男が狙われているじゃろ?」

「そう言えば、そうでした」

「あの中年男を見張っていたら、ヒリュウと藤堂が現れよるわい」

 珍宝院は簡単に言うが、あのおっさんがどこの誰だかもわからないのだ。見張りようがない。

「ほれ」

 珍宝院が紙切れを出した。なにか書かれている。

「なんですか?」

「中年男の名前と住所じゃ」

 珍宝院はちゃんとわかっているのだ。

「あの人が美人局の被害に遭うんですか? 貢がせるだけって感じでしたけど」

「これまではそのつもりだったんじゃが、ヒリュウもわざわざ藤堂を店に通わせてっていうのが面倒になったようじゃ。そんなことよりも手っ取り早く金を稼ぎたくなったんじゃろ」

「これまでは一応ホストとして稼いでたのに、そうなったら完全に犯罪者ですね」

「うむ。だから遠慮はいらん」

 珍宝院はそれを言うと、そのまま去っていった。

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