俺としてもそうあって欲しいとは思っている。そうでなければ桜川がいなくなった原因がわからないし、どこに消えたのかもわからない。
「じゃあ、とにかく次に杉本が出かけた時につけて行くだけだな」
「そういうことだ」
俺たちはそれからまた待ち続けた。
時間はどんどん過ぎていくが、動きはなかった。待っているだけというのがこんなに辛いとは。
そして、そろそろ日が暮れるんじゃないかという頃になって、杉本がマンションのエントランスから出てきた。
「おっ、やっと出てきた」
俺は思わず言った。
「よし、後をつけよう」
桐山はそう言って歩き出した。
俺もそれに続いた。
杉本はまったく俺たちのことに気づいた様子もなく、ゆっくりとした歩調で前を行った。
だから、俺たちとしては見失う心配はなかった。
そして、そのまま杉本はとあるマンションに入った。
「あれ、ここはあいつの実家だよ」
と桐山が言った。
「ああ、ここがお前が前に言ってた、杉本の母親の住んでるマンションか」
「うん。ってことは桜川を監禁している場所には今日は行かないのか?」
「どうなんだろう? この後ひょっとしたらいくかもしれないけど」
俺たちはしばらくどうするか考えた。
しかし、桜川を監禁している場所を見つけるためには、杉本をずっとつけて回るぐらいしか方法がない。
ということは、またここで待つしかないのか。
俺は少しうんざりしていた。
「それにしても、結構あいつって母親と会うんだな」
桐山は不思議そうに言った。
「そりゃ、母親とぐらい会うだろ」
俺は当たり前のことだと思った。
「でも、女と同棲するような奴が、そんなに母親と会いたがるか?」
「それはわからないけど……。俺は女と同棲なんてしたことないし」
「それは俺もないけど、なんか違うような気がするんだよなぁ」
「じゃあ、あれだな。母親が桜川を監禁してるんだよ」
俺は冗談半分に言った。
「ハハハ、それだったら驚くけどな」
桐山は俺の冗談に笑った。
お互い、さすがにそれはないと思ったのだ。
「でも、考えてみたら、お前の言うように、確かに母親と頻繁に会うのってなんか違和感があるように思うな。俺は女と同棲の経験はないけどさ、いま仮に親と別居しているとしたら、そんなに親と会いたいと思わないもんな」
俺は改めて考えて思ったことを言った。
「そうだろう。俺も思わないよ。ってことは……。あっ!」
桐山が少し考えたと思ったら、急に大きな声を出した。
「なんだよ。急に」
俺は少し驚いた。
「いまピンと来たんだけど、さっきの話、本当にそうかもしれないぞ」
「さっきの話って?」
「だから、母親が桜川を監禁してるって話だよ」
「はぁ? さすがにそれはないだろう。母親がそんなことに協力するか?」
元は俺が言ったことではあったが、さすがにそんなことがあるとは思えなかった。
「いや、積極的に協力をしてなくても、息子が連れてきた桜川を見張ったり、食事の世話をしたりぐらいはあるんじゃないか?」
「いや、ないだろう。親ならすぐにやめるように注意すると思うぞ」
「確かにそうなんだけど、あいつは鈴木幸恵に暴力を振るってるわけだし、それは母親にも同じかもしれないぞ」
桐山の口ぶりはかなり自信がありげだった。
「つまり母親も息子を、つまり杉本を怖がってて言うことを聞くしかないって状況ってことか?」
「そうだ」
「うーん、どうなんだろう。お前は杉本親子が一緒にいるところを見ただろう? それから考えてありそうなのか?」
「正直言ってそれはわからないけど、ただ、母親の方が息子にすごい気を遣っている感じはしたな。その時はなにも思わなかったけど、あれってひょっとしたら息子の機嫌を損ねるのが怖かったんじゃないかとも思える」
「そうか。じゃあ、どうする? どうやって監禁してるか確認するんだ?」
「それは、タカシマンが乗り込んでだな」
「おいおい、無茶言うなよ。本当に桜川が監禁されてたらいいけど、もし間違ってたらどうするんだよ」
「そうだよな。じゃあ、壁をよじ登って窓から状況を確認するってのは? お前ならできるんじゃないか」
「あいつはの家って何階だよ?」
「三階だ」
「まぁ、それぐらいならなんとかできるか」
俺は喧嘩は強くなったものの、よく考えたら身軽になったのどうなのかわからない。ただ、できそうな気はした。
「ちょうど暗くなってきたし、いまなら誰にも見つからずにできるだろう」
確かに日が暮れて暗くはなっているが、桐山は自分がやるんじゃないから気楽に言うのだ。
「杉本家はどこの部屋だ?」
「あそこだ」
桐山は三階の一つの部屋を指さした。
部屋には灯りが点いていた。