「まぁ、鈴木さんに会って状況を報告しよう」
桐山がそう言って話を終えた。
後日桜川が鈴木幸恵と会うようにセッティングした。
俺たちと鈴木幸恵は喫茶店で会った。
ある程度は桜川が話をしているので、鈴木幸恵も状況はわかっていた。
「彼がいなくなってから、どうですか?」
桐山が訊いた。
「毎日平和な状態です。ありがとうございました」
と鈴木幸恵は頭を下げた。
しかし、イマイチ元気がない。
「でも、彼が退院したらどうするつもりですか?」
桐山がまた訊いた。
「それは……」
鈴木幸恵は言葉に詰まった。
普通に考えたらもう一緒に住まないと言って終わりのはずだ。そもそも別れたいと言っていたのだから、今回は丁度いい機会のはずだ。
「彼が戻ってきたらまた一緒に住むんですか?」
桐山が少し強めに言った。
しかし、それに対しては鈴木幸恵は固まったようになって、なんの返答もなかった。
「杉本は桜川を拉致して監禁したような男ですよ」
そう言われても、鈴木幸恵は黙っていた。
「あなたはまだ杉本のことが好きなんですね」
桐山がそう言うと、鈴木幸恵は小さく頷いた。
俺と桐山、桜川は目を合わせた。
「どうしてなんですか? 暴力を振るわれて別れたいって言ってたじゃないですか」
桜川が少し感情的になって言った。
「そう思ってたのよ。別れたいって思ってたけど、やっぱり彼がいないとダメなの」
と鈴木幸恵は言うのだった。
「でも、彼は酷い男ですよ。それがわかっててどうして?」
「それはわかってるけど、好きなものは好きなんだから仕方がないわ。理屈じゃないの。それに彼も私のことを好きでいてくれるし。暴力は振るうけど、そんな彼を助けてあげたいって気持ちもあるの」
と本人がそう言うのだから、どうしようもないという感じである。
「あの、彼があなたに近づいた理由を知っていますか?」
桐山が訊いた。
「いえ」
桜川はそのことは話していないのだろう。
「杉本があなたに近づいたのは、復讐のためですよ」
「復讐? どういうことですか?」
「あなたは昔ある男性と不倫関係にありましたよね?」
「えっ、どうしてそれを?」
「その男性との関係はどうなりましたか?」
「それは……。しばらく付き合ってましたけど、奥さんにバレて終わりました。でもそれがどう関係するんですか?」
「その男性の息子が杉本ですよ」
「えっ」
「杉本の家庭はあなたとの不倫がバレてから、崩壊してしまったんです。それを恨んでいた杉本は、アプリであなたを見つけて復讐を思いついたんです」
「そんな……」
鈴木幸恵は言葉を失った。
「だから杉本はあなたのことを好きではないです。むしろあなたを恨んでいますよ」
桐山は淡々とした口調で説明した。それだけに余計に衝撃が強かったようだ。
「鈴木さん。もう別れた方がいいですよ」
桜川が言った。
しかし、鈴木幸恵はそれにも黙っていた。
そこからは沈黙が続いた。
俺たちももう話すことはない。
しばらくして帰ることになった。
そして後日、桜川がその後のことを俺たちに報告するために、桐山の家に集まった。
「どうなった? やっぱり鈴木さんは杉本とは別れないって言ってるのか?」
俺が訊いた。
「うん。彼の入院している病院に見舞いにも行ってるみたい」
と桜川が言った。
「そうなんだ。俺たちはいったいなにをやってたんだ?」
と桐山はあきれ気味に言った。
「まったく無意味だった気がするな」
俺も言った。
「私、人間不信になりそう。初めはあんなに別れたそうにしてたのに、いまは逆に彼に夢中って感じなのよ」
桜川もどう解釈していいのかわからないという感じだ。
「でも、杉本は鈴木さんのことを恨んでるのは変わらないだろう? どんな感じなんだろう」
俺は疑問に思った。
「杉本は鈴木さんが見舞いに行っても不愛想なんだって。見舞いになんて来るなって。それにもう別れるって言ってるらしいわ」
「なんだそれ。つまり杉本としては、もう恨みを晴らすとかそういうのはどうでも良くなったってことか?」
「たぶんそうなんでしょうね」
「だとすると、まぁ、俺たちのやったことも多少は意味があったと言えなくもないか」
俺がそう言うと、他の二人も頷いた。