「さて、そろそろ肉も焼けたな。おい、その辺に皿があるだろ。それを取ってくれ」
リュウヘイに言われて、俺は辺りを見ると皿が確かにあった。角が少し欠けたかなり使い込んだ大きな皿だ。
俺はそれを取ってリュウヘイに渡した。
リュウヘイはその大きな皿に焼けた鶏肉をドサドサと雑に移した。
「それじゃあ今度は取り出した内臓を網で焼くから取ってくれ」
リュウヘイに言われて、俺はさっき取り出した内臓を持ってきた。内心これは捨てるものだと思っていた。
血にまみれてドロッとした鶏の臓物は不気味だった。
焼き鳥屋で普段食べているのだが、こうして捌きたての臓物を見るのは当然初めてだ。
「それを網に置いてくれ」
とリュウヘイは言う。
「えっ、これは洗わなくていいですか?」
俺が持ってきた臓物は取り出したままで、さっきまで地面に放置していたものだ。
「いいよ。そんなの気にしなくても。食うのはあのジジイなんだから」
リュウヘイはそう言うが、自分達が食べないからと言って洗わずに調理するのもどうかと思った。
俺の顔に気持ちが出ていたのだろう。
「大丈夫だ。あのジジイならなんの問題もない。普通じゃねえんだから」
とリュウヘイは言った。
「そ、そうですか」
俺は納得したわけではないが、とにかく網の上に臓物を並べた。
リュウヘイはそれを燃える炭火で適当に焦がしていく。
脂分が多いのだろう。垂れた脂で時折炎が舞い上がった。しかし、リュウヘイはそんなことも気にしていなかった。むしろ燃え上がった炎のおかげで早く焼けるから良しとしている感じだ。
そして、黒く焦げたその臓物を別の皿に盛ると、
「じゃあ、あっちに行こう。あんたは三人分の箸を持ってきてくれ」
リュウヘイは皿を持って本堂へと向かった。
俺は箸を持ってそれに続いた。
「出来たか?」
本堂では珍宝院が待っていた。
「ああ、出来たぜ」
リュウヘイは持ってきた皿を床に直に置いた。
俺は箸を配った。
「さあ、食え。遠慮はいらん」
珍宝院は俺に勧めた。
しかし、俺はあまり食欲がなかった。さっきまで生きていた鶏を食うことに抵抗感があったのだ。
俺の手が止まっていると、
「なんじゃ、食欲がないのか? ワハハ」
珍宝院はわかっているのだ。俺がどういう状態かを。
「ふん。あんたもじきに慣れるよ」
リュウヘイはそう言って鶏肉を摘まんで口に運んだ。
そして旨そうに食うのだった。
珍宝院もほとんど丸焦げ状態の鶏の臓物を摘まんで口に入れた。
そしてクチャクチャと音を立てながら、次々に食べていった。
年寄りのわりにはかなりの食欲のようだ。
俺はそんな二人の姿を見ていると、急に腹が鳴った。
腹は減っているのだ。
「さあ、食えよ。普段から肉食ってんだろ? 一緒だよ。いつもは他の人がやってくれてることを今日は自分たちでやったってだけだ」
リュウヘイの言うことは確かにそうなのだ。
俺は鶏肉に箸を伸ばした。そして、つまんで口に運ぶ。
当たり前だが普段食べる鶏肉の味だ。しかし、なんの味付けもしていないので、変な感じだ。
「どうだ? 調味料なんて使わなくても案外旨いだろ?」
リュウヘイが俺に訊いてきた。
「そ、そうですね。意外と食べられます。ちゃんと鶏肉の味が感じられるというか」
正直なところおいしくはないが、そう言わないといけない雰囲気だ。
「ワハハハ。そうじゃ。ここでの生活になれると、これまで食べていたものが食えなくなるぞ。味がし過ぎてな」
珍宝院は愉快そうに言った。
そしてそんなことを言っている間に、珍宝院は臓物を一人で全部食べてしまった。
リュウヘイもどんどん食べる。俺と二人で半分ずつにするという感じではない。
だから俺も食べる速度を上げた。
そして食事はあったいう間に終わった。
「食うのも修業じゃからな」
珍宝院はそう言うと、本堂から出て行った。
「どこに行ったんですか?」
俺はリュウヘイに訊いた。
「さぁな。いっつも飯が終わったらどこかに帰るんだよ」
「どこか?」
「ああ、俺もそれはどこなのか知らんけどな」
「は、はぁ」
どこかに帰るって、この金満寺が珍宝院の家じゃなかったのか?
「さて、片付けるか」
リュウヘイはそう言うと立ち上がった。
俺は食べ終えた皿と箸を持ってリュウヘイと二人で流しに行き洗った。
「あんたさ、これから一年のことをどう考えてるか知らねえけど、思っているよりも大変だからな」
リュウヘイは突然言った。
「そうなんですか?」
俺としても楽とは思っていないが、強くなっているいまの俺ならそんなに大変ではないように思えた。
慣れないこともあるだろうから精神的にはともかく、体力的なことは問題ないはずだ。