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第122話 修行⑤

「そのままスクワット千回じゃ」

 珍宝院が言った。

「千回! そんなに無理ですよ」

 俺の脚は担いだだけでプルプルと震えるぐらいなのだ。千回もスクワットができるはずがない。

「初めから無理と決めるんじゃない。やってみるんじゃ」

 珍宝院に言われて、俺は無理だと思いながら膝を曲げた。

 膝に荷重がかかる。

 しかしできないということはなさそうだ。

 俺はいったん地面まで腰を降ろし、また立ち上がった。

「そうじゃ。その調子で千回繰り返すんじゃ」

 数回ならともかく千回なんてとてもできるとは思えないが、やるしかないという感じである。

「まぁ、きついけどできなくはないさ」

 とリュウヘイが言った。

 俺はその言葉を信じて、なんとか屈伸を繰り返した。確かにできないということはなさそうだ。

 これも以前の俺なら無理なことだ。そもそもこの丸太を持ち上げることすら無理だっただろうし、スクワット千回なんて手ぶらでも無理だし、当然やったことがない。

 そして結局、俺はスクワット千回をやり終えた。

 全身が疲労で、丸太を降ろした瞬間に地面に倒れこんだ。

「ワハハハ、やればできるってことじゃ」

 珍宝院は満足げだ。

 そしていつものビンを取り出し、ジョボジョボとその中に小便をしだした。

「ほれ、これを飲め」

 最近は飲み慣れてなんともなくなっていたが、目の前で出したものを飲むのはやっぱり抵抗感があった。

 しかし、俺はそれを一気に飲んだ。生温かいのが気持ち悪い。

「あれ、なんだか体の疲労が消えたような」

 俺はさっきまで立てないぐらいに疲れていたのに、いまはそういう感じはなくなっていた。

「疲労回復の効果があるんだよ」

 リュウヘイが言った。

「そんな効果があったんですか?」

 俺はいままで気づかなかった。でもこれまで肉体的に疲れた状態で飲んだことがなかったかもしれない。

「あるみたいだ。俺も初めは気づかなかったけどな」

 とリュウヘイが言った。

「さて、それじゃあ、明日から毎日丸太を担いでスクワットを千回するんじゃ」

 珍宝院がそう言うと、

「やってたらあんなイノシシの攻撃をかわすなんて余裕になるぜ」

 とリュウヘイが付け足した。

「おい、リュウヘイ。今度はあれじゃ」

 珍宝院が言うと、リュウヘイがまた丸太を持った。そして俺から少し離れた。

 どうするんだ?

 俺は今度はないをするのかと思うと、その丸太を俺にめがけて放り投げてきた。

 太い丸太が俺の方へと飛んでくる。

「受け取るんじゃ」

 珍宝院に言われ、俺は飛んできた丸太を抱きつくようにしてキャッチした。

 重さで体が持って行かれ、フラフラとして後ろ向けに取れた。

「こら、しっかりせんか」

「早く立てよ。立って今度はあんたが俺に向かって投げるんだ」

 とリュウヘイが待っている。

 俺は立ち上がると、リュウヘイがやったように丸太を担いで放り投げた。

 丸太はかなり重いがなんとなリュウヘイの方へ投げることができた。しかし勢いはない。リュウヘイの場所まで届くことなくリュウヘイの足元に転がった。

「なにやってんだよ。しっかり投げろ」

 リュウヘイは転がった丸太を持ち上げて、また俺に投げ返してきた。

 リュウヘイの投げた丸太は小さい放物線を描いて俺の胸元へと飛んできた。

 この重さのものをこんなに投げられるなんて、やはりリュウヘイはただ者ではない。

 俺は丸太を受けた。今度は倒れることはなかったが、かなり足元がふらつくし、丸太が当たる部分が痛い。

「あの、これも修行なんですか?」

「そうじゃ。黙って繰り返せ」

「何回ですか? 千回じゃ」

「ええっ、これも千回」

「黙ってやれ」

 珍宝院は有無を言わせない雰囲気だ。

 俺は言われたとおりやった。

 リュウヘイも黙々とやる。

 スクワットもきつかったが、これもかなりのきつさだった。

 しかしリュウヘイはキャッチボールのような感じで涼しい顔だ。

 こういうことをやっていると、俺もリュウヘイのようになるのだろうか?

 それにしても千回は多い。

 スクワットで一時間ぐらいかかったのだ。

 これは二時間はかかりそうである。

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