なんとか丸太のキャッチボールは終わった。
体全体がバラバラになりそうだ。
こうなるとまた珍宝院のおしっこが欲しくなる。あれを飲めば体が蘇るのだ。
そう思っていると、珍宝院がまたビンにおしっこをして俺に渡した。
俺はそれを受け取りゴクゴクと飲んだ。
体力はすぐに回復した。すごい効果だ。
「どうじゃ? 体の感じは?」
珍宝院に訊かれて、
「疲れてましたけど体力は戻りました」
と俺は答えた。
「いや、そうじゃない。昨日に比べて力がついたりはしておらんか?」
そう言われてもいまいち実感はなかった。
「あまりわからないですけど……」
俺がそう答えると、
「かー、情けないのう。自分の体の具合もわからんのか。仕方がない。リュウヘイ、ちょっと相手をしてやれ」
珍宝院に言われたリュウヘイは面倒くさそうにしながらも、
「はいはい、じゃあ、ちょっとかかって来な」
と俺に向かって手招きした。
珍宝院がこんなこと言うということは、俺には今日のこれだけの訓練で昨日よりも強くなったということなのか?
俺は半信半疑だった。
そんなにすぐに強くなるはずがない。
「早くかかって来いよ」
リュウヘイが言った。
俺は昨日散々やられているのであまり気は進まなかったが、ここは行くしかない。
俺はリュウヘイと向かい合った。そして、素早くパンチをリュウヘイの顔めがけて出した。
リュウヘイはそれをあっさりと横へ頭を振ってかわし、自分もパンチを俺の顔に打ち込んできた。
俺はそれを腕で受けた。
あれ、昨日ならこんなことはできなかったはずだ。
俺は昨日よりも反応が良くなっているように感じた。
しかし、そこまでだった。
パンチを腕で受けたまでは良かったが、そのまますぐに蹴りが来て、それを腹に受けた。
「ウッ!」
俺はそのままその場に倒れ込んだ。
「ま、そんなもんじゃな」
珍宝院は結果が予想できていたのか、そんなことを言った。
「まぁ、俺の方がずいぶん長くやってるからな」
とリュウヘイも言った。
「どうじゃ? タカシ」
「あ、あの、昨日よりも少しリュウヘイさんのパンチが見えたように感じます」
俺は蹴られた腹をさすりながら言った。
「ワハハハ。じゃあ、今日はまた山を散歩するぞ」
珍宝院は笑ってそう言ったかと思うと、山に向かった。
俺とリュウヘイはそれについて行った。
「あの、また散歩ですか?」
俺がリュウヘイに訊くと、
「ああ、そうだ。あのジジイはとにかく俺たちに体力をつけさせることと、野生の勘を取り戻させるのが目的みたいだからな」
と答えた。
「体力はともかく野生の勘ってこんなことで取り戻すことができるんですかね?」
「そんなこと俺が知るかよ」
「でも、リュウヘイさんはもう長年こういう生活をしてるんですよね? 実感としてはどうなんですか?」
「悔しいが取り戻せている」
「じゃあ、効果があるってことなんですね」
「だけど、それが良いと言ってない。野生の勘なんてものを取り戻したせいで俺は社会に戻れなくなってんだからな」
リュウヘイはどうしてもそこに引っかかるようだ。
「でも、すごい能力を手に入れられたのなら、良いこともあるんじゃないんですか?」
「まぁ、そういう考えもあるだろうけどな。しかし俺は別にこんな人生を望んだわけじゃねぇ」
リュウヘイは吐き捨てるように言った。
そんな会話をしている間も、珍宝院はドンドンと山道を進んだ。朝の時と同じでかなりの速度だ。散歩とは名ばかりでほとんど全速力である。
そしてまた一時間で戻るのかと思いきや、一時間たった時点で大きな木のところで止まった。
「おい、あれじゃ」
珍宝院がリュウヘイに言った。
「はいよ」
リュウヘイに取ってはいつものことなのだろう。
すぐにその大木を登り始めた。
「タカシもついて登るんじゃ」
俺はそう言われて、リュウヘイに続いて木に登り始めた。
しかし、木は両手が回らないぐらい幹が太いし、地面から十メートルぐらいは枝もなかった。
そんな木をリュウヘイは幹に腕を巻き付けるようにしてあっさり登って行く。
俺もそれを真似して幹に抱きつくようにして登りだした。
腕は樹皮でかなり痛いし、少し登った時点で擦り傷ができた。
これは体力とかの問題だけではなさそうだ。