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第127話 懲罰①

「あの、いったいなんの話ですか?」

 俺は二人に訊いた。

「明日は朝から出かけるぞ」

 とリュウヘイが答えた。

「どこへ行くんですか?」

「これじゃ」

 珍宝院が紙切れを袂から取り出した。そして、それをリュウヘイに渡した。

「わかった」

 リュウヘイは紙切れを見てそう言った。

「どこですか?」

「明日になればわかるよ」

 とリュウヘイは答えてくれなかった。

 俺としてはますます気になるが、二人とも答える気はないようだ。

「じゃあ、明日は頼むぞ」

 そう言うと珍宝院は本堂から出て行った。

「そんじゃあ、寝るか」

 リュウヘイがそう言って床に寝転がった。

 とにかく質問は受け付けないらしい。

 俺も仕方がないので、そのまま寝ることにした。


「おい、起きろ」

 リュウヘイに揺すられて、俺は目を覚ました。

 まだ外は暗い。

「こんなに早い時間から行くんですか?」

 朝からとは言っていたものの、こんなに早いとは思わなかった。

「結構遠いからな」

「だからどこなんですか?」

「ここだ」

 リュウヘイは昨夜珍宝院が渡した紙切れを俺に見せた。

 それを見ると電車で1時間ぐらいで着く場所だ。

「ここに行くのなら、そんなに早く出なくても大丈夫ですよ」

 俺が言うと、

「歩いていくんだぞ」

 とリュウヘイは言うのだった。

「ええっ、歩いてですか?」

 俺は信じられなかった。

「そうだ」

「なんでなんですか?」

「ジジイの命令だ。それに俺たちが電車に乗るとなにかと問題がある。とにかく公共交通機関を俺たちは使えない」

 リュウヘイはそう言うと本堂を出た。

 俺も仕方がないのでそれについて行った。

 ここでの生活も一か月でかなり慣れたが、服の替えがないので、洗濯してはいつも同じ服を着ている。臭いはしないが見るからにボロだ。

 リュウヘイもそうだから、確かにこの格好で電車に乗るのはちょっと問題があるかも。

 それにしても、街に出るのなら服を着替えたい。

 リュウヘイのスーツもかなり傷んでいるが、それで町中に出て平気なのだろうか。

「あの、服はこのままですか?」

「服はどこか適当なところで買って着替える」

 俺とリュウヘイは山を下りた。

 俺は一か月ぶりの下山だ。

 山を下りると目的地の方へと向かって歩き出した。

 そして、店が開くような時間になると紳士服店に入った。

 リュウヘイは髪はボサボサで髭も伸び放題だ。俺も一か月髭を剃っていないので人生で一番伸びている状態だ。そんなのが店に入ってきたものだから、店員は一瞬息をのんでいた。ヤバいのが来たという感じなのだろう。

 そしてしばらくすると一人の男の店員が静かに近づいてきた。

「あの、なにをお探しでしょうか?」

 男は中年でかなりベテランのようだ。

「スーツとシャツとネクタイと靴だ」

 リュウヘイがぶっきらぼうに言った。

 どうやら全部買い替えるようだ。

「そうですか、ありがとうございます。ではどのようなものがよろしいですか?」

 店員はかなり買ってくれると思ったのか少し態度が和らいだ。

「任せるよ。俺とこいつの分を見立ててくれ」

 とリュウヘイは俺の分も一緒に買うようだ。

「あの、俺もスーツですか?」

「そうだ」

「いや、俺はスーツとかじゃなくて、もっとカジュアルなものがいいですけど……」

「なに言ってんだよ。スーツにしとけ。スーツを着てたらとりあえずはまともに見える」

 とリュウヘイは折れる気はないようだ。

 それにしてもスーツを着てたらまともに見えるって、そんなものだろうか?

 ただ、リュウヘイに歯向かってまで他の服を買おうというほどの気持ちもなかった。

 店員がいくつかのスーツとかを持ってきた。

「こんなのでいかがでしょう?」

「おっ、じゃあそれに着替えるわ」

 リュウヘイは店員が服を受け取ると、試着室に入り服を着替えだした。

 俺も服を受け取り着替えた。

 スーツなんて就職面接をして以来だ。

 ネクタイの結び方もあまり覚えていない。

 それでもなんとかすべてを身につけた。

 俺が更衣室から出るとリュウヘイは着替え終えて外に立っていた。

 リュウヘイはグレーのスーツで、俺は紺のスーツだ。

「よし、これでいいだろ。いくらだ?」

 リュウヘイは店員の言った金額をポケットから取り出して支払った。

「あのう、俺の分も買ってくれるんですか?」

「ジジイが金をくれてたんだよ」

「へー、そうなんですね」

 珍宝院がお金を持っていたことに驚いた。

「あのジジイがどうやって金を手に入れているのかは謎だけどな」

 とリュウヘイは俺の疑問に答えるように言った。

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