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第128話 懲罰②

 服を着替えた俺たちはまた目的地に向かって歩き出した。

 それにしてもなかなかの遠さだ。一日にこんなに歩いたことなんかない。それでもいまは平気で歩けている。これはここ一か月の修行の成果なのだろうか・

「ところでこういうことってよくあるんですか?」

 俺は歩きながらリュウヘイに訊いた。

「こういうことって?」

「だから、誰かを懲らしめるとかって言ってたと思うんですけど……」

「ああ、たまにな。これまでも何人も懲らしめてきた」

「そのう、懲らしめるって、いったいどういうことですか?」

「悪いことをしている奴らを懲らしめるんだよ」

「悪いことをしている奴らって、どこの誰なんですか?」

「それはその時々によっていろいろだ。ジジイが勝手に見つけてくるんだよ」

「そうなんですね。じゃあ、今回の悪い奴らってのは、どんな悪いことをやったんですか?」

「それは聞いてねぇ」

「え、聞いてないんですか?」

「ああ。ジジイも教えてくれねぇしな。まぁ、俺も初めて言われた時は、ジジイに訊いたけど、教えてくれなかったな。いいから行って懲らしめて来いってだけでな」

「それで良く納得できますね?」

「仕方ねぇだろ」

「でも、どんな悪いことをやった奴か知らないのに懲らしめる気になります?」

「なるもならないもねぇよ。ただ、実際にジジイに言われた奴らの顔を見たら、こいつ悪いことをやってるなってわかるからな。遠慮はしねぇ」

「はぁ、そんなもんなんですね。それにしても俺たちにこんなことをさせる珍宝院様の目的ってなんなんですかね?」 

「さぁな。それも聞いたことはねぇけど、たぶんこの世を良くするためとかじゃねぇの」

 リュウヘイはあまりそういうことに興味がないのか、それともわざと考えないようにしているのか、とにかく珍宝院に言われたことはやるというスタンスのようだ。

 そして、その日は朝から歩き通して、日が暮れるころにやっと目的地に着いた。

 電車だったら一時間もあれば着く場所なのに。

「さて、このビルだな」

 リュウヘイは紙切れに書かれていた住所のビルの前に立っていった。

「このビルの一番上の階にある会社の連中を懲らしめるってわけだ」

「あの、懲らしめるって言ってますけど、具体的にどういうことをするんですか?」

「それは、連中を全員葬り去るわけだ」

「え」

「聞こえなかったか? 葬り去るんだよ」

「それって、つまり殺すってことですか?」

「まぁ、簡単に言うとそういうことだ」

 リュウヘイは当然のことのように言った。

「こ、殺すんですか?」

 俺は少し驚いた。

 懲らしめるって言ってるから、多少痛めつけるぐらいと思っていたのだ。

「なんだよ。嫌なのか?」

「いや、嫌とかそういうことじゃなくて……。あ、いや、やっぱり嫌ですよ。だって見ず知らずの人ですよ」

「なに言ってんだよ。見ず知らずでも悪い奴は悪いだろ」

「それはそうかもしれないですけど、俺はその人らに恨みもなにもないですから」

「そんなの俺もねぇよ。だけど、これからヤル相手は少女を強姦して殺したような連中だぞ」

「なんでそんなこと知ってるんですか? 珍宝院様からはなんの説明もなかったんですよね?」

 俺はリュウヘイが口から出まかせを言っていると思った。

「確かにジジイからは説明はされてねぇ。だからなにをやったかは聞いてねぇとは言った。だが、俺とジジイは話をしなくてもわかることがあるんだよ」

 とリュウヘイは説明した。

 そう言えば、珍宝院も人の心の中がわかるみたいだし、リュウヘイもわかるようだ。だから、いちいち説明は不要ということか。

 それに気づくと、俺はなんだか疎外感を感じた。

「あんたも、そのうち俺と同じようにわかるようになるよ」

 リュウヘイは俺が心で思ったことを読み取ったのか、そんな風に言った。

「ところで少女を強姦して殺したのなら刑務所にいるんじゃないんですか? どうしてこのビルにいるんです?」

「やったときはまだ全員未成年だったんだよ。それでいまは自由の身だ。連中は全員で八人。反省していまは真面目に生きているのなら、俺たちもここに来なくて良かったんだけどな。自由になってからいまも少女強姦をやめてもいないし、殺しもしてる。以前に比べて人間性はなにも変わっていないけど、それが表に出ないように悪い知恵だけがついたんだな」

「そうなんだ」

 俺はリュウヘイの話を聞いて、その連中を懲らしめることへの抵抗感はかなりなくなった。

「いま連中はこのビルの一室で、一応コンサルタント会社を経営しているということになっている。もちろん実態はないわけだが、この連中の親が金持ちらしくてな。バカ親どもが金を出してとりあえず格好だけを整えたってわけだ」

 そういうことか。

 つまり少年院を出た後、就職もできずどうしようもない息子らをそこに入れて、とりあえず世間体だけは良くしようとしているということか。

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