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第129話 懲罰③

「ま、とにかくこれから相手する連中は、殺してもそんなに心を痛めるような相手ではねぇってことだ」

 リュウヘイはそう言うが、どんな奴でも殺すことには抵抗感はある。

 しかし、俺がこれまで相手した奴でも、知らないだけでその後死んだ奴もいたかもしれない。

 そんな風に考えると、これからやることも同じようなこととも言えそうだ。

「あんたも友達と正義の味方をやってたんだろ? だったら基本的には一緒だ。さあ、行くぞ」

 リュウヘイは俺の返事を待たずに歩き出した。

 ビルに近づく。

 ビルは五階建ての雑居ビルで、いろんな事務所が入っているようだ。

 リュウヘイはビルの間の路地へと入った。

「ここから上がるぞ」

 リュウヘイはビルの壁を指さした。

 どうやらビルの階段で上がるのではないようだ。

「なんでこんなところから上がるんですか?」

「他の連中に見つからないようにだ。いまどき防犯カメラもあるしな」

「なるほど」

 俺が以前桜川を助けた時と同じ理由か。

「さて、じゃあ、行くか」

 リュウヘイはそう言うと、ビルの壁に伝っているパイプに手をかけた。そして、するすると壁を這い上がっていく。

 俺もそれに続いた。

 普段木登りをして鍛えていたのが役に立った。なんの苦労もなくあっさりと五階に着いた。

「ここから中の様子を見てみろ」

 リュウヘイに言われて、俺は壁にある小さい窓からそっと中を覗いた。

 すると中には男が八人いた。テレビを観ているものや、応接セットに座ってだべっていたりで、仕事をしている感じではない。

 見た感じは全員二十代の前半という年齢だろう。パッと見ただけでガラの悪い感じだ。タトゥーは全員しているし、髪も金髪とかだ。

 俺の苦手なタイプだった。絶対に友達になるタイプではない。

「あの連中がレイプをやってるってことですか?」

「ま、そういうことだな」

「それにしても珍宝院様はどこでそんな情報を仕入れているんですかね?」

「さぁな。まさかネットをやってるとも思えねぇし、俺もそれは知らん。だけど、ジジイの持って来る情報は確かだ。今回のこともどうせ後でニュースになるから、それを見てみな」

「わかりました」

「じゃあ、やるぞ。四人ずつな。俺はテレビを観ている連中をやるから、お前はだべってる奴らをやってくれ」

「は、はぁ」

「いいか、遠慮はいらん。確実に殺すんだ」

 リュウヘイは低い声で言った。

「は、はい」

 俺はいまから人を殺すと思うと、体が硬くなった。緊張で喉がキュッと締まる感じがした。

 俺にできるのだろうか?

「行くぞ」

 リュウヘイはそう言うと、窓ガラスをパンチで割って事務所の中へと入った。その動きはかなり素早かった。

 俺もそれに続いた。

 突然髪がボサボサで無精ひげの延びたスーツ姿の男が二人入ってきたので、連中は一瞬呆気に取られていた。

 しかも入ってきたところが、入り口のドアからではなく窓だ。

「な、なんだ、テメーら!」

 止まっていた空気を割くように、一人の男が叫んだ。

 それに対してリュウヘイはなにも言わなかった。そして次の瞬間、踏み込むとテレビを観ている連中のうちの一人を殴った。

 殴られた男はなにもできず、もろに顔面を殴られた。そしてそのまま壁まで吹っ飛び、壁に激しくぶち当たった。

 殴られた顔面はほとんど原形をとどめていない。スイカが弾けたみたいに潰れていた。そして壁にぶち当たったことで全身の骨も砕けたようだ。曲がってはいけないところが曲がっている。

 それからあっと言う間に、リュウヘイは他の三人も倒した。

 俺は一瞬動きが止まってしまったが、慌ててソファに座ってだべっていた連中に近づき、連中を力いっぱい蹴った。

 ソファに座って四人の男の顔面を正面から次々に力いっぱい蹴ったので、男の首は折れて、首から上がまるで空気の抜けかけた風船のようにだらんと肩から垂れ下がった。

「よし、終わったな」

 リュウヘイが事務所の中を見回す。

 事務所の中にはぐったりとした男の体が八つ転がっていた。殴られたところは原形をとどめず、見ていられない状態だ。かなり凄惨なことになってしまった。

 俺はその状況に一気に吐き気がしてきた。

 それにリュウヘイは気づき、

「おい、ここで吐くな。我慢しろ」

 と言った。

 俺は涙目になりながらなんとか耐えた。

「帰るぞ」

 リュウヘイはそう言うと、入ってきた窓から出てビルの外へと出た。

 ビルから出て下へと降り、しばらく歩くと俺は我慢できず道路脇に胃の中のものを吐いてしまった。

「おいおい、汚ねぇな」

 リュウヘイはそう言うが、俺は止めることができなかった。

「ま、初めはそんなもんだ」

 とリュウヘイは笑った。

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