それにしてもこんなことをしないといけないのだろうか?
連中は確かに悪い奴らかもしれない。おそらくリュウヘイが言っていたことは本当だ。
だからと言って、連中を俺たちが殺していいという論理が成り立つのだろうか?
俺は吐き気を抑えながらそんなことを考えた。
「さて、帰るぞ」
リュウヘイが言った。
「帰りも歩くんですか?」
俺としては電車でさっと帰りたかった。肉体的には普段鍛えているおかげで大して疲れてはいないが、精神的に参っていた。
「歩いて帰る」
そう言うとリュウヘイはさっさと歩くのだった。
仕方がないので俺も歩いた。
「こんなことを許されるんですか?」
俺は疑問をリュウヘイに質問した。
「こんなことって?」
「だから、連中を殺したことですよ」
「ああ、そのことか。許されるもなにも、そりゃ法律的には許されないだろうな」
「まぁ、そうでしょうね」
「だけど、連中に殺された少女やその家族としてはどうなんだ?」
「それは……」
「連中に強姦されて殺された女の子やその家族からしたら、なんで連中があんなに自由に暮らしているんだって気持ちになるだろう」
「もちろんそうですよね」
「中には連中を殺してやりたいって思う親もいるだろう」
「そう思います」
「あんたはそんな風に思う親のことをどう思う?」
「どうって、それは……。そんな風に思う親の気持ちは理解できます」
「だよな。俺もそうだ。だけど、その親からしたら、どうしようもないわけだ。おそらく被害者の親の気持ちは大多数の人が理解できるだろうし、賛同するだろうよ。だけど実際の社会はそれを許さない。もし被害者の親が連中を殺したら、その親は刑務所に行くことになるだろう。裁判官も同情はしてくれるだろうから、ひょっとしたら執行猶予があるかもしれん。だけど無罪にはならねぇだろ」
「そうですね」
「それを俺たちが代わりにやったって思うと、俺たちのやったことはどうなんだ?」
「良いことをやったと思います」
「じゃあ、悩む必要はねぇよな」
リュウヘイにそう言われて、確かにそうだと思った。しかし、心の底からそう思えたわけではない。やはりどこかスッキリしないところがある。
「リュウヘイさんは初めから平気だったんですか?」
「俺も初めは多少は抵抗感はあったさ。あんたと同じように終わった後吐いたしな」
「そうなんですね」
「だけど、すぐにこういうことをやるのに抵抗感はなくなったな。俺の場合だけど」
「俺もなくなりますかね?」
「それはどうかな。人によるんじゃねぇのか。でも、どっちにしても珍宝院はこれからもあんたにこういうことをやらせるぜ」
「そうですねよね。やっぱり」
俺はなんだか暗い気分になった。
「そう落ち込むな。あんたはまだましだぜ。俺がいるからな。俺なんて初めからずっと一人でこんなことをやらされてんだぞ」
「ええっ」
俺はリュウヘイに対して尊敬の念が湧いてきた。
それにしても珍宝院も無茶苦茶だな。
「あの、ところでどうして現場まで歩くんですか? やっぱりこれも修行のうちだからですか?」
「さぁな。ジジイがそうしろって言ってるからな。でも、俺も疑問に思ってたんだが、おそらく修業って意味もあるだろうけど、それよりもさっきビルに入るのに壁を上っただろ? あれと同じ理由じゃねぇのかな」
「つまり防犯カメラに映らないようにってことですか?」
「そうだ。いまどき駅とかにも当たり前のように防犯カメラがあるからな。だけど、こうやって歩きで移動してたら、そういう捜査の手が伸びそうなところの防犯カメラには映らないだろ」
「なるほど。確かにまさか歩いて現場に来ているとは思わないですもんね」
「ま、それが理由かどうかは俺も知らねぇけどな。ジジイに理由を聞いたこともないし、ジジイに訊いても教えないだろうしな」
「はぁ」
珍宝院はどうしてなにも理由を言ってくれないのだろうか?
別に理由を言ってもいいように思う。いや、むしろ理由を言ってくれた方が、俺たちとしても納得してできると思うのだが、なにか意図があるのだろうか。
「ところで、あんたは今日の自分の動きをどう思った?」
「あ、そう言えば、かなり以前よりも動きが良くなっているというか、力も強くなったし速くもなってます」
訊かれるまであまり実感していなかったが、訊かれて考えたら、一か月前の自分とはかなり違っていた。
「あのジジイはなんの説明もしねぇし、とにかく無理やりやらせるけど、ちゃんと効果は出るってことだ」
リュウヘイはなんだかんだ言っても珍宝院のことを尊敬し信頼しているだろう。言葉の端々からそんな風に感じられた。
「ただ、まともな社会人として復帰はできなくなってるけどな。あのジジイのせいで」
リュウヘイは吐き捨てるように言った。
なかなか複雑な思いを抱えているようだ。