次の日もいつもどおりの生活だった。
朝からいつもどおりの訓練である。
ただ、昼頃になった時に一羽の鴉が新聞をつかんで飛んできた。ここに来る時に乗った大きな鴉ではなく、普通の大きさの鴉だ。
その鴉はつかんできた新聞を珍宝院の足元へと落とした。それを珍宝院が拾うと、
「ほれ、昨日お前たちがやったことが出とるわい」
と俺の方へと渡した。
俺は受け取った新聞を広げた。パラパラとめくると昨日やっつけたレイプ魔の連中のことが載っていた。
内容は以前に強姦犯で捕まった連中が何者かに殺されたというものだった。
それからその強姦魔の連中のことが詳しく書かれていた。その内容はおおむねリュウヘイから聞いたものと同じだった。
あの八人はまだ未成年の頃に、同じく未成年の少女を次々に強姦し、証拠を隠滅するために殺して山に捨てていたというのだ。
そして逮捕されたが、未成年ということで早く刑期を終えて社会復帰していたとある。
俺は知らなかったが、当時かなり話題になったようだ。
未成年だからと言って軽い刑で出てくるなんて許せない、死刑にすべきだという論調はかなりあったようだ。それもあって、新聞の記事も殺された被害者に対してほとんど同情的ではない書き方だ。むしろ八人を殺した犯人を良く書いているようにも取れる。
警察は被害者の身内の犯行ではないかと調べているようだ。
「どうだ?」
リュウヘイが横から言った。
「リュウヘイさんの言ってたとおりの連中ですね」
「そうだろ。ま、そんな連中だからいちいち気に病むことねぇって。死んで当然のクズだ」
とリュウヘイは吐き捨てるように言った。
リュウヘイの言うように、俺も自分のやったことを少し納得できた。これで良かったんだと、思えるようになった。
「この世には、そんなとんでもない悪魔みたいな連中がいるんじゃが、そういうのを野放しにしておくは良くないじゃろ?」
珍宝院が言った。
「それは、そう思います」
「じゃが、本当の問題はそんな連中ではないんじゃ」
「と言いますと?」
「ま、それに関してはまたおいおい話すわい」
と珍宝院はそれ以上の説明はしなかった。そしてそのまままた訓練を再開した。
こんな生活をまた一か月ぐらい続けた時だった。
夕食を食べていると、珍宝院が、
「また懲らしめる奴が出てきたぞ」
と言った。そして、またメモをリュウヘイに渡した。
リュウヘイはメモをチラッと見ると、
「わかったよ」
とだけ答えた。リュウヘイはメモを見るだけで内容まですべてわかるのだろう。
「あの、俺にも教えてもらえないですか?」
俺は仲間外れにされているようで嫌だった。
「ほら、今度はこいつだ」
リュウヘイはメモを俺に渡した。
しかし、そのメモには名前と住所が書いてあるだけだ。これでは俺はなにもわからない。
「そいつが今回やる相手のリーダーだ。そこから芋づる式に一網打尽にする」
リュウヘイはそう言うが、俺が訊きたいのはそいつらがどういう悪いことをやっている連中かだ。
「あの、こいつらどんな悪いことをやってるんですか?」
「それは、行く時に説明するよ」
とリュウヘイは言って、話を終わらせた。
次の日の朝、夜が明ける前に起きた。
「今日も歩いていくんですか?」
俺が訊くと、
「当然だ」
と愛想のない返答があった。
昨日見たメモの住所からすると、前よりは少し近いはずだ。
それでも歩きで四時間はかかるだろう。
「ただ、今日は行く前に身ぎれいにしていくぞ」
とリュウヘイが言った。
「身ぎれい?」
「そうだ。今回は人目に触れることが多いからな。髭も剃って髪も整えていく」
リュウヘイはそう言うと、俺を連れていつもの川へと行き、きれいに体を洗うように言った。そして汚れている服も洗うように言った。
いまから洗ったら乾かないだろうと思ったが、リュウヘイはそんなことお構いなしにジャブジャブと着ている服を脱いで川で洗いだした。着ているのはもちろんスーツだ。シャツとスーツそのものを川で洗うというのはなんとも乱暴だ。洗剤もないのにきれいになるのかなと思ったが、俺も仕方がないので真似して洗った。
それから剃刀で髭を剃った。髪も適当に切って洗った。
そしてすべて終わると、ビショビショの服を着た。濡れたシャツを着るのはかなり気持ちが悪い。それに濡れたスーツは重たかった。ただ、ポリエステルのスーツだからこんな扱いをしても一応大丈夫なのだろう。
髭を剃って髪を切ると、リュウヘイから怪しさはかなり消えた。俺もだろう。
「こんなに濡れたスーツでうろうろするのはマズくないですか?」
「心配するな。街に出るころには乾く」
リュウヘイはそう言うが、そうなのだろうか?
さすがにそんなことはないと思うが、もうそうするしかない。