俺たちは金満寺を出て目的地へと向かった。
夜が明けて明るくなりだしていた。
「ところで、今回の相手はどんな奴なんですか? 教えてくださいよ」
俺は早く聞きたかった。
「今回の連中は、強盗団だよ」
リュウヘイは歩きながら答えた。
「強盗団?」
「そうだ。金持ちの老人の家ばかりを狙う強盗だ。しかも、単に強盗するだけじゃない。いつも入った家の老人を殺している」
「そ、それは酷いですね」
そんな犯罪なら、いま世間ではかなりニュースになっているのだろうが、なにせ俺らは山で修行しているので、まったく世間に触れることがない。スマホもとっくに充電が切れている。金満寺には電気は来ていないのだ。
「まぁな。かなり乱暴な連中のようだ。これまでに被害者は十人になる」
「そんなにですか」
十人も被害者が出ているのに警察はなにをやっているのか?
俺はむしろそっちの方に腹が立った。
「警察も頑張って捜査してるんだろうけどな。なかなか尻尾がつかめないみたいだな」
リュウヘイは俺が思ったことに答えるように言った。
「でも、そんな大胆な犯行をしてて、そんなに尻尾がつかめないものなんですかね?」
「ま、その辺のことは俺もわからねぇけどな。ただ、それだけのことをやっていていまだに捕まらねぇってことは、連中はそれなりに頭はいいってことだろうな。それと強盗に入った家の人をとにかく殺すから、目撃者とかが出てこないってのもあるんだろうな」
「なんか、めちゃくちゃ乱暴なやり方ですね。でも、そうやって目撃者を皆殺しにしているのなら、確かに目撃者は出てこないですよね」
「そういうことだ。とにかくそんな連中をいつまでも野放しにしておくわけにもいかんってことだな」
「そうですね」
俺は納得した。
「ところで、今回は一か所に犯人が固まっているわけじゃないんですよね」
「そうだ。今回はこのリーダーの居所しかわからん。だから、そこから伝って犯人全員を血祭りにあげる」
「なんで珍宝院様は全員の居所を教えてくれないんですかね?」
そもそも警察もつかめていないような犯人の居所を知っているぐらいなのだから、珍宝院なら全員の居所がわかるはずだ。
「わからねぇ。とにかくあのジジイはこういうことをするんだよ。意地悪なのか、サディストなのか、それとも単にそこまでしかわからないのか知らねぇけどな」
とリュウヘイは苦々しそうに言った。
そんな話をしながら歩いていると、夜はすっかりと明けて日差しが差していた。
着ているシャツもスーツも徐々に乾いてきている。
リュウヘイの言うとおりだと思いながら、リュウヘイを見ると、リュウヘイの体からは湯気が立ち上っていた。
「リュウヘイさん、体から湯気が出てますよ」
俺は驚いて言った。
「ああ、これは体温をわざと上げて服を乾かしているからだ」
「そんなことできるんですか?」
「まぁな、こんなことぐらい簡単だ。あんたも慣れればできる」
リュウヘイはそう言うが、慣れるというのはどういうことなんだ?
濡れた服を着るのに慣れるってことなのか?
「ま、俺の服はもうすぐ乾くだろうけど、あんたの服だって着くころにはさすがに乾くだろうさ」
「は、はぁ」
どうやら珍宝院の修行をしていると、いろんなことができるようになるみたいだ。それにしても体温を意図的に上げて着ている服を乾燥させるなんて、人間乾燥機みたいなことができるとは。便利だけど、普通に社会で過ごしていたら、そんな能力あまり使う機会がないように思う。
それから歩き続けて、昼前に俺たちは強盗団のリーダーの自宅と思われる場所に着いた。
「どうやらここだな」
そこはタワーマンションだった。
三十階建てぐらいで、その最上階に住んでいるようだ。
「こんなところに住むってことは、結構荒稼ぎしているってことですね?」
「まぁ、そういうことになるな。老人を殺して奪った金で、贅沢な暮らしをしてるってな、許せねぇだろ」
リュウヘイが腹立たしげに言った。
意外と正義感があるようだ。
「そうですね。ところで、これからどうするんですか?」
「とにかくメンバー全員をヤラないとダメだからな。まずはこいつを監視して、強盗団のことを調べよう。何人いるかとか」
「何人かもわからないんですか?」
「だいたいはわかってる。おそらく五人から十人の間だ」
今回は前回に比べてやることが多そうだ。
「じゃあ、これからどうします?」
「まずはそいつの部屋に入る」
とリュウヘイは言うのだった。
「え? 部屋に入ってそのリーダーを締めあげて他のメンバーの居所を吐かせるんですか?」
「いや、そうじゃない。いまそいつは家にいなんだよ」
「あ、そうなんですね」
「なんせそいつは役所勤めの公務員らしいからな」
「え? 公務員。役所の?」
「そうだ。普段は市役所で働いていて、強盗団のリーダーをやっているという変わり種だな」
強盗団と市役所の職員というのは、確かに変わり種である。