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第137話 強盗団⑤

 そのフォルダには、運転免許証の写真が何枚も入っていた。

「なんだこれ?」

 俺は思わず言った。

「なんだろな? ちょっとそのメモ帳を開いてくれ」

 リュウヘイに言われて、俺はフォルダの中にあったメモ帳を開いた。

 そこには名前と住所が書かれている。そして名前の後ろにカッコ書きであだ名が書かれていた。

「ああ、なるほどな。これがさっきの強盗団のメンバーってことか」

 とリュウヘイ。

「なんでその連中の免許証の写真が?」

「最近、闇バイトってのがあるみたいだ。ネットでバイトする奴を探してその連中に強盗をさせるってのがな」

 そう言えば、以前に桐山とひったくりグループを退治したことがあったけど、あれと似たようなものってことか。

 俺は理解できた。

「つまりバイトの連中が逃げられないように身分証明書を出させているってことですね」

 ニュースでも聞いたことがある。

「そういうことだろうな。それにしても、これを見ていると、結構若いな。みんな」

 リュウヘイは驚いた感じで免許証の写真を開いていった。

 だいたいが二十代前半である。つまり俺と同じ年代だ。

「どうします? 強盗団のメンバーの居所も全員これでわかると思うんですけど、全員退治しますか?」

 俺としては闇バイトで申し込んできて、半分無理やりやらされている連中を退治するのは少し抵抗感があった。

「まぁ、状況次第だな。それよりも、俺はこれを見てピンと来たよ。この楠本って奴は、自分ではなにもしてないな」

 リュウヘイが顎に手を当てながら言った。

「どういうことですか? それは」

「楠本って奴の写真を見ただろ。あいつが強盗なんて乱暴なことできると思うか?」

「ちょっと無理っぽいですね」

「そうだろ。つまり俺が思うに、楠本はこうやって集めた連中に仕事をさせて、自分はここから指示だけ出しているってことなんだろう」

「でも、そんなのでうまく行きます?」

「やり方次第さ。おそらくこの闇バイトに来てる連中は、楠本って奴を知らないんだよ。会ったこともないんだ。だから言うことを聞くんだよ」

「えと、どういうことですか?」

「あんたも鈍いなぁ。メンバーは楠本のことを知らねぇから、命令している奴のことをいろいろ勝手に想像するんだよ。そうするとどうなる?」

「うーん、こんなことの元締めやってるぐらいだから怖い組織をイメージしますね」

「だろ。つまり楠本は自分のことを知られないようにすることで、勝手に恐怖心を抱くようにしているんだよ。そして免許証で身元をつかんでおくことで、逃れられないって勝手に思わせるのさ」

「なるほど。でも実際の楠本は別に怖い組織でもなければ、ヤバい人間でもないと」

「さっきの写真を見た感じだと、楠本って奴は頭はいいんだろうけど、おそらく暴力的なことはからっきしだろ」

「しかし、それでも逃げる奴とかいるんじゃないんですか?」

「まぁ、そりゃいるだろ。でも、どうせネットとかで集めた連中だから横のつながりもないだろうし、逃げる奴は逃がしておけばいいって思ってんじゃねぇの。逃げた奴は逃げた奴で、いつか報復があるかもしれないってビビッて身を隠しているだろうから、それがメンバーに広がることもないってことだろ」

「ありそうですね」

「それでさっきのエクセルの表を見てて思ったけど、結構きちんとメンバーに金は払っているんだろうな。だからメンバーにもそれなりに納得感もあるのかもな」

「でも、やることは強盗ですよ。ちょっとやそっとお金をもらっても割に合わないと思いますけどね」

「まともな奴なら、そうさ。だけど、こんな闇バイトに申し込んでくるような奴らだ。ちょっと考えたらわかりそうなこともわからないような連中ってことだよ」

 確かにそうなのだろう。こんなことをする奴らだ。短絡的にしかものを考えられないのだろう。

「よし、全体の画は見えた。やっぱり今度の強盗をする現場でヤルことにしよう」

 とリュウヘイは言った。

「わかりました。でも、それっていつですか?」

「それは楠本自身に訊けばいいよ」

「は、はぁ」

 俺たちはこのまま楠本の部屋で待つことにした。

「それにしてもリュウヘイさんって案外頭いいんですね」

 俺はリュウヘイの推理力に驚いた。単に体力だけの人間ではないようだ。

「案外は余計だ。それにこれぐらいのことはこんだけ情報が集まれば誰でもわかる」

 とリュウヘイは言った。

「これからどうなるんですかね?」

「なにが?」

「俺って一年の修業って話でしたけど、その一年が終わったら、どうなるんでしょう?」

 俺はいまの生活に慣れてきていた。早く元の生活に戻りたいという気持ちはあるが、リュウヘイと同じで、俺も元の生活に戻れないように思えてきた。

「さぁな。ただ参考までに俺の経験を話しておくと、俺も一年の約束で修行が始まった。だけど、元に戻ることはなかった」

「そ、そうだったんですね」

 俺もリュウヘイと同じ道をたどることになりそうだ。

 しかし、そんな予感とは別に、また元の生活に戻って桐山や桜川と楽しく過ごしたいという気持ちは強かった。

 あの二人はいまごろどうしてるんだろう。

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