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第138話 強盗団⑥

 夕方の六時ごろになった。

「そろそろ帰ってくる頃だな」

 リュウヘイが壁の時計を見て言った。

「そうですね。どうします?」

「とりあえず隠れておいて、楠本を部屋の中まで入らせよう」

 そう言うとリュウヘイは廊下の途中にある風呂場へ向かった。

「あんたはそっちに隠れてくれ」

 とリュウヘイは俺にはトイレに隠れるように指示した。

 トイレと風呂場は廊下に並んである。

「でも、楠本は中に入って来ますかね? だってドアが壊されてるんですよ。怪しんで入ってこないんじゃないんですか?」

 俺は思ったことを言った。

「いや、入ってくるさ。確かに怪しむだろうけど心配の方が勝つはずだ。なんせ強盗団のリーダーだからな。お金以上に取られたらまずいものがあるんだ」 

 とリュウヘイは言った。

 俺たちが風呂場とトイレに隠れ、しばらくすると玄関の方で人の気配がした。

 どうやら楠本が帰ってきたようだ。

 なにやらゴソゴソと玄関でしているみたいな音が聞こえてきた。

 リュウヘイはまだ風呂場に隠れている。

 そして少しすると、廊下のフローリングがかすかにきしむ音が聞こえてきた。楠本が中に入って廊下を歩いているのだろう。

 その時思った。

 俺はいったいどのタイミングで出たらいいのだろう?

 リュウヘイとなんの打ち合わせもしていない。

 そんなことを思っていると、足音はトイレの前を行き過ぎた。

 リュウヘイはまだ風呂場にいるようだ。

 どうするつもりだろ?

 そんなことを思った瞬間だ。

 風呂場の扉が開く音がした。そして、その音と同時に別のバタバタという音も聞こえた。

 俺は急いでトイレから出た。

 すると廊下には楠本もリュウヘイもいなかった。

 俺は廊下を奥に行き、リビングに入った。するとそこでリュウヘイと楠本が向かい合っていた。

 楠本は手に大型のナイフを持っていた。

「お、お前ら、何者だ!」

 楠本は少し震えた声で言った。

「まぁまぁ、そう昂奮するな。ちょっとお前に訊きたいことがあるんだよ」

 リュウヘイは落ち着いた声で言った。

 俺はその様子をリュウヘイの背中越しに見ているしかなかった。

「う、うるさい。出て行け。出て行かないと警察を呼ぶぞ」

 楠本の声はやはり震えていた。かなりビビっているのがわかる。

「呼んでもいいけど、困るのはどっちかっていうとお前の方だろ?」

 リュウヘイは相変わらず落ち着いていた。

「うっ、そ、それは、どういう意味だ?」

「どういう意味って、それはお前の方が詳しいだろ。フフフ、お前みたいな腰抜けが強盗団のリーダーとはな。メンバーが知ったら逆にお前が強盗されそうなツラだな」

 リュウヘイの話に、楠本は顔色をなくしていた。元々色白だが、いまは便器のように真っ白になっている。

「そ、それでいったい、なんの用なんだ?」

 楠本はなんとか気持ちを立て直したのか、しかし、まったく勢いのない小さい声で言った。

「お前が今度狙っている家はもうすでにわかった。それをいつやるように指示してんだ?」

「そ、それは……。そんなことより、まずあんたらはいったい何者なんだよ。それを言ってくれ」

 楠本は徐々に落ち着いてきたようだ。

「説明は難しいんだよなぁ。とにかくお前のような奴を許さない存在と思ってくれ」

「そ、そんなんじゃ、説明になってないよ」

「まぁ、それは俺もそう思うけど、それ以上の説明ってしようがないんだよなぁ」

 リュウヘイはそう言って頭をポリポリと掻いた。

 楠本は、そんな風なリュウヘイを見て黙った。

 どうしようか考えているのだろう。

「ああ、一応言っておくけど、逃げようって考えても無理だから。そのナイフで俺たち二人をやっちまってって思っても、俺たちは二人はお前の適う相手ではないしな」

 リュウヘイが黙っている楠本に向かって言った。

 おそらく楠本の考えていることがわかったのだろう。

 そんな風に言われて、楠本は手に持っているナイフを見た。

 そして、覚悟を決めたのか、踏み込んでナイフをリュウヘイに向けて突き出した。

「クソー!」

 楠本は思い切ってリュウヘイにかかったのだろうが、腰は引けていた。

 どう考えても暴力的なことの経験はない動きだ。

 リュウヘイはそれをあっさりとかわすと、楠本の腹にパンチを入れた。

「ウグッ」

 楠本の息が詰まった。そしてそのままくの字に体を曲げて床に倒れ込んだ。

「さぁ、強盗をいつ実行するように指示したのか言えよ」

 リュウヘイは床にうずくまっている楠本の横腹を蹴った。

「ぐあああ」

 楠本が悶えた。

「あ、今日。今晩です」

 楠本はあっさりと吐いた。

「何時だ?」

「今日の、二十一時です」

 楠本はもう抵抗する気はないようだ。

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