「何人だ?」
リュウヘイがさらに訊く。
「え?」
「だから、何人でやるんだよ。強盗を」
リュウヘイはまた楠本の横腹を蹴った。リュウヘイは楠本に厳しかった。まったく容赦する気はないようだ。
「ウグッ、よ、四人です」
楠本が答えた。
「四人か。よし、じゃあ現場の地図をプリントアウトしろ」
リュウヘイはそう言うと楠本を立たせた。そしてパソコンのある部屋へと連れて行った。
楠本はすっかり諦めたのか、まったく抵抗することなく言われたとおりに、現場の地図をプリントアウトした。
リュウヘイはそれを受け取ると、俺にそれを渡した。
「あんた、一人で行って処理してきてくれ」
「俺が一人でですか?」
俺としては意外な言葉に戸惑った。一人で行くのが怖いということはないが、いままでリュウヘイの指示に従っていただけなので、なんとなく不安があった。
「そうだよ。俺はこいつを処理しないといけねぇしな」
「そ、そうですか。あの、ところで……」
俺はリュウヘイと、楠本から少し離れた所へ移動した。そして、
「強盗団のメンバーはヤルんですか?」
と楠本に聞こえないように小声で訊いた。俺は強盗団のメンバーを殺すことに抵抗感があった。所詮は闇バイトの応募者だ。
「なんだ? 嫌なのか?」
「そりゃ、嫌ですよ。だって、主犯はあきらかに楠本ですし。強盗団のメンバーっていってもバイトだし」
俺は正直に自分の気持ちを言った。
「でも、そいつらはなんの抵抗もできないような年寄りを殺して金品を奪うような連中だぞ。主犯でないにしても許されることじゃねぇよ。遠慮はいらん」
とリュウヘイはあくまでこの世から抹殺をするべきという感じだ。
「まぁ、そうなんですが……」
俺はそれでもなんだか抵抗感があった。前のレイプ犯の連中に関してはある程度納得もできたが、今回はなにか納得できない。
おそらく今回このメンバーは所詮は手足でしかないからということなんだろう。
「そんなに嫌なら、ちょっと待て」
リュウヘイはそう言うと、楠本の方へ行った。
「おい、お前の彼女との写真あるだろ。あれもプリントアウトしろ」
リュウヘイにそんなことを突然言われて、楠本はギクッとしていた。
そもそもあの写真の女が楠本の彼女かどうか確信はなかったが、その態度からあきらかに楠本の彼女であることがわかった。
「あ、あの、いったいなんのことですか?」
楠本はとぼけた。彼女を巻き込みたくないのだろう。
「もうわかってんだよ。とぼけなくていい」
そう言うとリュウヘイはパソコンを操作して、さっき見た女と楠本が写っている写真を開けた。
「ほら、これをプリントアウトするんだ」
リュウヘイにそう言われて、楠本は苦々しい顔をして黙った。
顔には焦りの色がはっきりと出ていた。
「お前の彼女だろ? この女は」
リュウヘイが訊いた。
楠本は唾を飲み込んだ。そして黙っているし、動こうとしなかった。これまで言われるままに素直に従っていたのに。
「まぁ、いいよ。彼女であることはもうわかっているんだし、お前がしねぇなら、俺がやるよ」
リュウヘイはそう言うと勝手にプリントアウトした。
プリンターから印刷された紙が押し出された。
「ま、待ってくれ。か、彼女は関係ない」
楠本が急にしゃべった。
「関係ない? ほう、そうか。関係ないか。それはお前のやってることを知らないってことか?」
「そ、そうだ。だからその写真をどうするつもりか知らないけど、彼女にはなにもしないでくれ」
楠本はかなり焦っている様子だ。彼女のことが余程大切なのだろうと思えた。
「あの、この写真をどうするんですか?」
俺はリュウヘイに訊いた。
「あんたが、強盗団のメンバーを殺したくないって言うから、その写真を持って行って連中にリーダーがどういう奴か教えてやればいいと思ったんだよ」
とリュウヘイは答えた。
「うわー、そ、それだけはやめてくれ。頼む」
楠本は異常に焦りだした。
「なんだよ。えらく焦ってんじゃねぇか? なんでそんなに焦るんだよ」
リュウヘイは答えを知っていてわざと訊いているようだった。
「そ、そんな獣みたいな連中に俺のことが知られたら、もう安心して暮らせなくなる」
楠本はそんなことになったら、連中がどういう行動に出るかある程度予想がついているのだろう。そしてリュウヘイのやろうとしていることの意図をすぐに察したのだ。
「でも、お前が集めた連中だろ。獣みたいなのを選んでな」
リュウヘイは冷たく言い放った。
「そ、そうだけど、すみません。勘弁してください」
楠本は土下座する勢いで謝った。
「勘弁もなにも、お前はもうすでにやることはやってしまったんだよ。すでに何人も被害者が出てるんだ。そんなに虫のいい話はねぇんだよ」
「じゃ、じゃあ、彼女だけでも。俺は自首するから、とにかく彼女のことは連中に教えないでくれ」
楠本の彼女を必死で庇う姿に、俺は彼女を強盗メンバーに教える必要はないんじゃないかと思えた。楠本の言うように、彼女はなにも関係ないのだ。