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第140話 強盗団⑧

「あの、彼女のことはいいんじゃないんですか? こいつの言うように関係ないんだし」

 俺は横から意見を言った。

「あんたも甘いなぁ。いいんだよ。女のこともきちんとメンバーに教えるんだ」

 とリュウヘイは意見を変えなかった。

「は、はぁ」

 俺としては納得できないが、それ以上反対する気にもなれなかった。

「じゃあ、ま、行ってきてくれよ。俺はこいつとここで待ってるから」

 リュウヘイはそう言うと俺にプリントアウトした写真を渡した。

 俺はモヤモヤとした気持ちを持ちながらも、とにかく強盗現場に向かうことにした。


 強盗のターゲットになっている家はそんなに遠くはなかったが、なにせ移動手段が自分の脚だけなので、少し急ぐ必要があった。

 俺は急ぎ足で現場の付近まで行くと、まだなにも起こっていないようだった。

 ターゲットの家の前まで行く。表札には高橋と書かれていた。そしてその下に高橋設計事務所というプレートも貼られていた。自宅兼事務所って感じなのだろう。

 家はかなり大きくて、設計事務所と言うだけあってすっきりとしたデザインで趣味の良さを感じる建物だった。当然お金はかなりありそうだ。

 俺は強盗団の連中が来るまで、物陰に隠れて様子を見ることにした。

 俺はリュウヘイから受け取っていた写真を取り出して見た。

 楠本と彼女が一緒に写っている。デートの時にでも撮った写真なのだろう。二人とも笑顔で楽しそうだ。言いたくはないがなかなかお似合いの二人という感じである。

 それにしても、リュウヘイはこの写真をメンバーに渡して楠本と彼女のことを教えろって言ったが、なぜそんなことをするのか?

 確かに俺はこのメンバーを殺すことに抵抗感はある。いくらこれまで強盗殺人をやった連中だと言っても、俺はこの連中に恨みもないのだ。

 リュウヘイとしては、メンバーに楠本のことを教えることで、仲間割れをさせて組織を壊そうとしているのは理解できる。しかし、それに彼女は無関係じゃないか。

 俺がそんなことを考えながら、待っていると一台のバンが静かにやってきた。

 そして、バンから四人の男が降りた。

 どうやら来たようだ。

 街灯はあるが夜なので暗い。しかし四人の男がいかにもガラの悪そうな連中であることはわかった。

 手にはバールや大型ナイフを持っている。

 あれで無理やり中に入って住人を殺してお金を奪うのだろう。なんとも乱暴な犯罪だ。

 そんな奴らを見ていると、さっきまでは殺すことに抵抗感があったが、急に気持ちが変わるのを感じた。

 強盗団はインターホンを押した。

 すると中から応答があったようだ。強盗団のメンバーが身構えるようにしている。

 俺は出て行こうと思ったが、ふとここで殺さないのなら顔を見られるのはマズいと思った。

 俺としては、とりあえず強盗団の連中をボコボコにしてから楠本と彼女の写真を見せ、そいつらの雇い主がどんな奴なのか教えるつもりだった。

 しかし、そうするということは、俺の顔が連中に知られるということだ。

 俺はなんとか顔を隠せないかと考えた。

 ああ、あの桐山の作ってくれたタカシマンのマスクがあったなら。

 そんなことを思っていると、白いレジ袋が道端に落ちているのを見つけた。

 あっ、これだ。

 俺は以前レジ袋を被って顔を隠したことを思い出した。

 俺はそのレジ袋を拾った。捨てられてかなり時間がたっているのか、結構汚い。しかし、もう時間もないし贅沢は言ってられなかった。

 そのレジ袋に目と口の来るところに指で穴を開けて頭からかぶった。

 ゲッ!

 雨に濡れていたのか、中には水が入っていた。顔にその水が垂れ流れる。

 なんだよぅ。

 気持ち悪いと思ったが、顔を見られるよりもましだろう。

 そんなことをしているうちに、高橋家の玄関のドアが開いた。

 すると強盗団が一気に家の中へと入り込んだ。

 始まったのだ。

 俺は物陰から出て、家へと向かった。

 連中が高橋を殺す前に止めないといけないのだ。

 俺は玄関から飛び込んだ。

 しかし、もう玄関に人はいなかった。

 そして廊下の奥の方から声が聞こえてきた。

「ゴラー、金はどこじゃ!」

 一人の男の声が聞こえる。強盗団のメンバーの一人だろう。

 俺はその声のする方へと足を向けた。

「さっさと教えろ! このジジイ!」

 強盗団はかなりいきり立っているようだ。

 そこへ俺は足を踏み込んだ。

「待て!」

 俺はそう大きな声で言った。

 すると、四人の強盗団が一斉にこっちを見た。その眼は激しく血走っている。

 そして一緒に老人二人もこっちを見た。どうやらこの二人がここの住人なのだろう。七十代ぐらいの夫婦だ。

 二人は床に転がされていた。

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