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第141話 強盗団⑨

「な、なんだ?」

 強盗団のメンバーはびっくりして大声で言った。

 なにが起こったのか理解できないという感じである。

 考えてみたらこの連中は素人なわけだから、強盗に入っているときはかなり緊張しているはずだ。そんなところにレジ袋を被った奴が突然現れたら、頭は混乱するだろう。

「やめろ。バカなことをするんじゃない」

 俺は冷静に言った。

 するとメンバーはお互いに顔を見まわした。どうしたものか考えているようだ。

 メンバーは全員俺と同じぐらいの年齢だ。ただし、俺とは絶対に仲良くなることがないようなガラの悪い顔つきである。

 家主の老夫婦もなにが起こったのか理解できない様子で俺のことを見ていた。

 それにしても強盗団のメンバーは誰も顔を隠していない。

 これは顔を見られてもいいということなのだろう。つまりこの老夫婦を初めから殺すつもりなのだ。なんとも乱暴な仕事だ。

 そんなことを思っていると、強盗団の方はどうするかの答えた出たようだ。

 みんなが手に持っているナイフやバールをこちらに向けて構えた。

「ま、まずはこいつをヤルぞ!」

 一人が震える声で言った。どうやらそいつがこの中では力を持っているようだ。見た感じも一番ガラが悪そうだし、体もデカい。

「やるの? ホントに」

 俺が訊くと、相手はなにも答えず生唾を飲みながら俺の方を睨んでいた。

 そして、

「オリャー!」

 とバールを持った男が一人俺に向かってきた。

 バールが俺の頭に振り下ろされる。尖った先が頭に当たったら一瞬であの世行きだ。

 こいつらなんの躊躇もなく人を殺せるんだな。

 俺はバールを片手で受け止めた。そしてグッと握った。

「クソッ!」

 バールをつかまれた男はバールを引いて俺の手から逃れようとするが、俺としては余裕だった。まったく手から離れそうにはなかった。

 そして、バールを握ったまま、俺は踏み込んで男の顔面を殴った。

 グチャっという感触があり、男の顔が歪んだ。

 かなり手加減をしたので、死ぬことはないはずだ。しかし、パンチが鼻に当たったので、鼻骨は折れただろう。鼻血がツーっと流れた。

 男は思わずバールを手から離したので、俺はそのままバールを握りなおして、残りのメンバー三人の方を向いた。

 他のメンバーはいまの俺の動きで、ただ者ではないと理解したようだ。

 誰もが身構えたまま躊躇していた。

「どうする?」

 俺が訊くと、それが呼び水になったようだ。

「や、やっちまえ!」

 三人が次々にかかってきた。

 それを俺は手にしたバールで順番に殴っていった。

 勝負は一瞬だった。素手でもあっさり勝てる相手だ。バールなんかあるとすごく簡単だ。

 あっと言う間に男四人は床に倒れて呻き声を上げることになった。

 誰もがもうまともに動けそうにはない。

「こんなバイトはもう辞めることだな。それから、お前ら、自分の雇い主がどんな奴か興味あるだろ。こいつだ」

 俺は持ってきた楠本とその彼女が写っている写真を男たちの前に落とした。そして楠本の住所の書かれたメモも一緒に落とした。

 男たちは呻きながらもその写真とメモを目で追っていた。

「おい、いつまでも寝てるんじゃないよ。迷惑だろ。さっさと出て行け」

 俺は床でうずくまっている連中を蹴っ飛ばした。

 男たちは俺にやられて痛む体をなんとか動かして家から出た。  

 老夫婦はそんな様子を震えてみているだけだった。

「じゃあ、お邪魔しました」

 俺はそう言うと家を出た。

 家の外に出ると、乗ってきたバンに四人が乗ろうとしているところだった。

「おい、お前ら。もう絶対にこういうことをするなよ。今回は殺さなかったけど、本当ならお前らはみんな俺に殺されていたんだからな」

 俺がそう言うと、男たちは悲鳴のような声を上げて、車にさっさと乗りこんで走り去った。

 俺はそれを見送ると、被っていたレジ袋を脱いだ。

 それにしてもこれで良かったのだろうか。

 あいつらには楠本のことを教えたけど、これからどういう行動に出るのだろうか?

 楠本はそれをかなり恐れていたようだが、いままで使っていた連中が自分のことを襲うと思っているのだろう。

 しかし、本当にそういう行動に出るのだろうが?

 俺はそんなことを思いながら、とりえあず楠本の家に戻った。

 俺が玄関から入ると、リュウヘイが暇そうにしていた。

 楠本は縛られて床に転がされていた。

「おう、どうだった?」

 リュウヘイが言う。

「強盗は止めてきましたよ。それで楠本と彼女の写真も連中に渡しました」

 俺はそのまま答えた。

「よし、じゃあ、後は連中に任せるか」

「あの、連中はどういう行動に出るんですか? リュウヘイさんはそれをわかってるんですよね?」

「まあな」

「それってやっぱり楠本と彼女のことを連中が襲うってことですか?」

「そうなるな」

「でも、それって楠本はともかく、やっぱり彼女は関係ないんだし、マズいんじゃないですか?」

「あんたも甘ぇな。ちょっと来な」

 リュウヘイはそう言うと床に転がっている楠本に近づいた。

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