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第142話 強盗団⑩

「おい」

 リュウヘイはそう言って床に転がっている楠本を軽く蹴った。

「ヒッ」

 楠本は小さい悲鳴を上げた。俺が出かけている間に、リュウヘイにかなり脅されたのかもしれない。

 そう言えば、出かける前にはなかった痣が楠本の顔面にできていた。

「お前の彼女は、お前のやっていたことを知ってるんだろ?」

 リュウヘイが訊くと、

「い、いえ、知らないです。彼女には内緒でやってたんで」

 楠本は必死に訴えた。

「ほう、そうかい。本当は彼女はお前のやっていることを知っていて、むしろ彼女の方が乗り気だったんじゃないのか?」

「そ、そ、そんなわけ、ないじゃないですか」

 楠本の声は震えていた。あきらかに様子がおかしい。

「本当のことを言えよ。いまさらどうにもならんのだし」

 リュウヘイはそう言って楠本を軽く突いた。

「ヒッ」

 楠本はそれでもなにも言おうとしなかった。

「彼女はこいつが強盗団のリーダーって知ってたってことですか?」

 横から俺が訊いた。

「普通に考えてみろよ。単なる下っ端公務員がこんなところに住めるか?」

 リュウヘイが言う。

「住めないですね」

「そうだろ。こいつの彼女だってそれぐらい気づくはずだ」

「それはそうですね。だけど、そんな理由はいくらでも嘘は言えますよ」

「確かに言えるな。しかし、こいつは自分が強盗団のリーダーだって自慢したいんだよ。なんせこれまでずっとひ弱で地味な人生を送って来てたからな」

「なるほど、そうですね」

 そう説明されて、俺は楠本の気持ちがわかる気がした。俺だって似たように人生を送ってきたのだ。それを思うといま自分のやっていることを自慢したくなる。

「こいつは彼女に自慢したはずだ。いま世間で話題になっている強盗団は実は俺が操っているんだってな」

 リュウヘイがそれを言うと、楠本は体を硬直させた。

「そんなことを聞かされた彼女はどうすると思う?」

「うーん、どうなんだろう。そんな話は信じないか、信じたとしたらやめるように言いますかね?」

 俺は思いついたままを言った。

「ま、あんたの言うようなことを普通は考えるわな。しかし、こいつの彼女は違ったんだよ。そんなに儲かるならってんで、むしろよりやるように勧めたはずだ。そうだろ?」

 リュウヘイが楠本に話を振った。

 楠本は身を固くして黙っていた。しかし、その態度が肯定しているように取れた。

「しかし、そうだとしても彼女はなにもやっていないことには変わりないんじゃないんですか?」

「そう、なにもやっていない。強盗としてはな。しかし、女が強盗で得た金で贅沢をしていたらどうだ?」

「それは……」

「こいつの女は自分が贅沢したいがために、こいつの強盗を止めなかった上に、もっとやるように勧めたんだよ。死人も出ているのにな。確かに直接は犯罪行為に加担はしていないかもしれない。しかし、実質は仲間と言えるんじゃないか?」

「そ、そうですね」

 リュウヘイの話は俺を納得させるのに十分だった。

「いまの俺の話でだいたいあってるだろ?」

 リュウヘイが楠本に訊いた。

 楠本はここでもやはりなにも言わなかった。しかし、この状況で否定しないということは肯定したも同然だった。

「リュウヘイさんはいつそれがわかったんですか?」

「あの写真を見た時にわかったよ」

「だから彼女の写真も持って行かせたんですね」

「そんな女をこのままのうのうと生かしておくわけにもいかんだろ」

 リュウヘイは写真を見た時にわかったいうことは、人の心が読める能力と関係しているのだろうか? いや、関係しているのだ。そうでなければ、あの二人が仲良くデートしているところの写真を見てもなにもわからないはずだ。

 リュウヘイは最初にパソコンで写真を見た時点で、楠本と彼女の関係性などを見抜いていたのだ。

「さて、じゃあ、帰るかな」

 リュウヘイは出口へと向かった。

 俺もそれに続いた。

「楠本はあのままでいいんですか?」

「別に構わねぇよ。そんなにきつく縛ってるわけじゃねぇし、俺たちがいなくなったら勝手に解いているよ。そのうち女も来るだろうしな」

 俺たちはマンションを出た。まだ夜が明ける前の早朝なので管理人もいなかった。

「あの、ちょっと質問してもいいですか?」

「なんだ?」

「この後どうなるんですか? 楠本とか」

「まずあんたの倒した強盗団のメンバーが楠本のところに乗り込んでくるだろう。それから金を奪って、彼女のことを吐かせて彼女のことも襲うだろう。しかし、すぐに警察に捕まって全員刑務所行きだな」

「連中ってそんなに短絡的なんですか? 先の展開を予想しないんですか?」

「まぁ連中なりには先の予想はするんだろうけど、先ってのが結局は目先ってことなんだろうな。ああいう輩には楠本が元締めとわかれば、それに取って代わろうって奴が絶対いるよ。そいつが中心になって事が運ばれるってわけだな」

「楠本が恐れていた状態ってことですね」

「そういうことだ。ああいう粗暴な連中は暴力でしか支配できねぇ。それがねぇ楠本では、その存在がバレたら終わりだ」

 リュウヘイは言い切った。

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