言ってしまった。
陛下は見たこともないくらい驚いていた。
一瞬、固まっている。後悔が止まらなくなる。やっぱり、言ってはいけなかった。感情の波によって理性が流されてしまった。こんなのは、ただの自己満足だ。陛下を理解できていない。どうして、私たちは前に進むことができないのだろう。時間はあの日から止まったままだ。
その一瞬が、永遠にも思えるくらい長く感じる。きっと、死刑の判決を待つときはこういう気持ちなのだろう。
でも、最初に彼が言ってくれたことは、私の予想を超えていた。
「梅蘭。つらかっただろう。近くにいながら、そんなことに気づくことができなくてすまなかった。少なくとも、弟の件で、梅蘭が気に病むことなんてないのだ。すべては、皇帝である自分の責任なのだから。つらい思いをさせてしまったな」
陛下は私に近づいてきて、優しく抱きしめてくれた。壊れないように繊細に触れてくれる。
「ですが……」
突然の接触に胸が高まると同時に、同情させてしまったことに自己嫌悪を覚える。陛下と一緒にいることは幸せだけど、この自己嫌悪が深まる感覚が常に付きまとっている。自分は最低の人間だと無理やりにでも自覚させられてしまう。
「少なくとも、すべての決断をしたのは、私だ。だからこそ、責任はすべて持たなくてはいけない」
責任。自分はやはり彼の心には届かないのだと突き付けられたように思う。
「だが、弟を失ったという事実とその責任は重すぎるのだ。だから、一緒に背負ってはくれないか、梅蘭。これからも、私を支えて欲しい。この重い責任を一緒に背負ってくれるのは、弟をよく知っているあなたにしか頼むことはできないと思う」
彼は冷徹の仮面をかぶっていたのに、どうしてこんなに優しいのだろう。少しずつ、心が熱くなっていく。
「それは……私の罪も……」
陛下は優しくうなずいた。
「一緒に背負うつもりだ。おそらく、永遠に許されるものではないが、この気持ちを共有できるのは、私にとっては梅蘭しかいない」
あんなに、長い時間を一緒に過ごしていたはずなのに、この短い会話ほど距離が縮まることはなかった。
やっと、私たちの時間はゆっくりだけど動き始めた。