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陛下とともに、私は現場に戻る。
流れた血のせいで、気を失ったほうの人間が歩き回ったのだろうか。
部屋には至る所に足跡がついていた。
暗闇の中で、混乱したせいだろうか。足跡は本棚のほうから机のほうに動き、もう一度、被害者が倒れていた方向に向かっている。倒れていた宦官は、いきなり明かりが消えて、同僚の悲鳴が聞こえて、慌てて彼の方向に向かって、倒れていた体を抱きかかえたら、謎の声が聞こえて、なぜか気を失ったと証言している。
足跡は規則的に等間隔に並んでいる。彼が部屋を歩き回ったという証言は本当だろう。机の前にある座椅子に変わったところはない。床に積みあがっていた本や書類も乱れた様子がなかった。
「陛下、本当に外の見張りは、怪しい行動などは取っていないのですね?」
念のために、そう確認すると、陛下はうなずいた。
「こちらも前回の事件もあって、かなり深くきわどい質問をしたが、二人の証言に矛盾はなかった」
「口裏を合わせていた可能性は?」
私の問いに今度は大長秋様が首を横に振る。
「それも可能性が低いですね。今回の見張りの手荷物なども検査しましたが、特に怪しいものはありませんでしたし、あの事件後は私生活にも及んで後宮の重要な個所を警備する宦官については素性の調査も念入りにしております」
なるほど。そうとすれば……
やはり、怨念の仕業だと考えるほうが簡単。
そもそも、凶器をどこに隠すのか。
すべてが完璧に怨霊の仕業だという結論に達するようにできている。
でも、それは……
完璧すぎた。
※
医務室にいる宦官のもとに向かう。どうやら、眠っているらしい。
恐怖で震えて、断片的に証言をした後、気を失ったようだ。
武装した宦官も一緒だ。
私たちは医務室にほとんど強引に入り込み、武装した宦官に指示をした。
「この者がいなければ、陛下に対する悪評は封じ込められる。口を封じなさい。皇族の秘密を知ってしまった大罪人です」
こうするしかなかった。少し強引でも、ね。
宦官たちは、寝台に向かって、槍を振り下ろそうとすると……
「待ってくれ、助けてくれ」
意識を失っていたはずの宦官は飛び起きて、逃げようとした。
その様子を見て、私は安心した。