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第86話


 ※


 数日後。

 やはり、陛下の悪評が噂となって広まっているという報告を受ける。やはり、うわさというものは厄介だ。どうやっても、止めることはできない。これで、厳しい罰則などを使おうとすると余計に事態がこじれることになる。


 厳しい罰則は、諸刃の剣だ。

 確かに一時的には、民衆を恐怖で支配できるだろう。でも、それでは水面下で不満が熟成される。そして、熟成された怒りは、最初の怒りの何倍にもなって政権に襲い掛かってくる。


 民衆の不満が大爆発することになったら、それこそ国がなくなってしまう。

 この悪評を挽回するためにも、やはり結果が必要だ。


「それに、陛下は実績を出し続けている。海賊は減ったという報告を聞いているし、長年の宿敵だった西月国との和平も実現して、農村の再建も始まりつつある。たとえ、うわさが広まったとしても、それを覆す実績がある。だから、大丈夫」

 私は図書館で、司馬にそう話す。彼はうんうんと頷いている。一応、悩み相談というていを取っているけど、これは自分自身の不安を解消するためのものでもあった。


「そうだな。確かに結果を残しているからこそ、反乱が起きる可能性は低い。だが、その口実を残し続けていることを意味するんだ」

 相談相手の司馬はやはり現実的な可能性を指摘してくる。すべてを肯定するような人間ではないし。私も彼には自分にはない視点を求めている。


 そして、やっぱり彼の考えはもっともだった。


「そうね。もし、陰謀に巻き込まれたりしたら、帝位を奪われる可能性があるし、口実にもなってしまう」

 それが一番怖い。陛下の功績を否定するような不都合な事実を捏造されたりすれば、それまでの悪評と合わさって政局がすぐに不安定となる可能性がある。


 中華王朝の最大の問題は、易姓革命という考え方が浸透しているせいで、不安定なことだ。民衆の支持さえあれば、平民だって皇帝になれてしまう。


「ああ、特に皇帝は味方も多いが、敵も多い。それも、その敵は先代の重臣たち。国内の有力者が多い。やつらは、虎視眈々と情勢をひっくり返すことができないか狙っていた。今回は直接、動いてきたような形だな」

 さすが、司馬ね。物事の本質をよくわかっている。


「でも、それは裏を返せば……」

 私がそう切り出すと、彼は笑い出した。同じ結論に達した証拠だとお互いにほくそ笑む。やはり、同じ目線で話ができるのは楽しい。きっと司馬もそう思っているのだろう。最近、少しずつ仲良くなって、向こうの考えも少しわかるようになってきていた。


「相手方も相当焦っているな。帝位を継いでから、なにひとつミスをしない皇帝が業績を積み重ねることで、自分たちの存在感や力が徐々に削がれていることに焦っているんだろうな。いままで、ここまで直接的に嫌がらせをしてくることはなかったのだから。それもこんな直接的な動きをすれば、自分たちが裏にいることがバレる可能性だってあるのだからな」

 私も同意する。司馬がほとんど私の言いたいことを言ってくれた。


「そうね。つまり今回の問題を乗り越えて、相手のミスを見つけることができれば……」

 ここが反撃の糸口だ。


「向こうはミスをすれば、すべてが露呈するリスクを背負っている。そうなれば、直接動いていた人間がだれかわかる可能性が高い。それに、翠蓮は、誰が今回の件、裏で糸を引いているのかわかっているんだろう?」


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