しかし彼の住むような辺境地は、国境を守るための戦いは絶えておらず、決して平和とはいえないのである。
(まさに栄華の都だ。僕らの戦いは、これを支えるためにあったんだな)
道行く人の笑顔が、雷梧は自分の働きの結果のように思えてきた。
「雷将軍。私たちはちょっと所用がありますので、ここで失礼します」
大柄な体の王金鹿が、突然言った。
「え、ここで、ですか」
戸惑った雷梧に、小柄の方翔が紙片を渡す。
「旅籠の場所は、この地図に。夜になったら私たちも行きますので」
そう告げると、二人は馬首の向きを変え、街の奥へと消えていってしまった。
一人になった雷梧は、少し心細くなりはしたが、菓子の店や馬具の店などを見ていると、そのうち気楽になってきた。
雷梧は続いて、長安の西の市場へ出かけた。
ここには、西域人とも呼ばれる胡人(ペルシア、トルコ等の民族)が多く、シルクロードを経て来た織物や香料などが売られ、大いに賑わっている。
景教(キリスト教)や拝火教(ゾロアスター教)の寺院もあり、異国の風情が漂っていた。雷梧の部隊にも西域人はいたので、案外に見慣れたものもある。
時刻は夕方に近くなっていた。
腹も減ったので、酒場を探す。
見つけた店に入ると、客は漢胡入り交じりで男ばかり。皆何かを待っているようで、やたら下品な笑い声が響く。
雰囲気に戸惑いながら、雷梧は串刺し焼き肉のケバブ料理を食べた。ついでに葡萄酒も飲んでみる。
「何だ、子供のくせに酒なんか」
突然声をかけられて振り向くと、店主の男がばつの悪そうな顔をして立っていた。
「帰りな。今から舞台なんだ。ガキが見るようなもんじゃない」
確かに、店員が忙しげに店の中を片付け、中央に台のようなものをしつらえている。