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第7話

 雷梧は咄嗟に、こういう場所に慣れているような表情を作った。

「これでも軍人だよ。童顔で悪かったな」

 子供に見せられない出し物なら、尚更見てみたい。周りの連中を真似て、荒っぽく酒をあおった。店主は訝しげな顔で離れていく。

 舞台は完成し、たくさんの蝋燭を鏡で反射させ、白昼のように照らしている。

 店主の声が響いた。

「お待たせしました。当店が誇る胡姫の姉妹、沙維謝サイシャ沙維羅サイラでございます。遙か遠い康国こうこく(現ウズベキスタンのサマルカンド)よりやって参りました。十六歳と十二歳が織りなす、艶媚な胡旋舞を、どうぞお楽しみください」

 西域人の踊りを胡旋舞、その舞姫を胡姫と呼ぶ。雷梧も話には聞いていたが、見るのは初めてだった。

 舞台の脇にいる数人の楽団が、絡みつくような気だるい音楽を奏で始めた。それに伴って、金の髪、緑の瞳に白い肌の踊り子が二人、ゆっくりと舞台に上がる。

 蛇と葡萄を描いた紫色の衣装は、薄い上に、身体を最小限にしか覆っていない。二人は細身の身体を柔らかくうねらせ、二匹の蛇が絡むように踊り続けた。

 店内は喝采と野次が入り交じり、大騒ぎになった。常連らしい客は、踊り子の名を呼びながら拍手を送っている。

 雷梧は軍隊生活ばかりで、あまり女というものを見た事がない。年上の兵士たちはしばしば妓館に通っているが、何が楽しいのかよく分からないでいた。

 だが、今は違う。

 彼女たちのしなやかな身体に、雷梧の目は釘付けになった。酒の力も手伝って、自分の奥で育って来ていた何かが、強烈に叩き起こされてくる。

 そんなとき、胡姫の妹が、雷梧の方を見た。

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