戻った翌日、時仁夏より一着の鎧が贈られて来た。
青白い鉄の小板を連ねた本体に、白く走る稲妻の模様。胸の左右には楕円の護心鏡、背面は浮き彫りにされた雷公(嘴と翼のある雷神)の姿。
これは自分の名にちなんだ鎧だと分かり、雷梧は心の底から喜んだ。
「こんな良いものを。明日にでも、お礼を述べにいきます」
しかし、届けてくれた兵士は、沈痛な表情だった。
「できたら、今すぐ来ていただけませんか」
それ以上は言わず、外へ促す仕草をする。
嫌な予感がした。
「近くへ」
時仁夏が、雷梧を手招きする。額には脂汗が浮かんでいた。
「辛いのですか。しっかりしてください」
雷梧はすぐに駆けより、その手を握る。ぞっとするほど指が細くなっていた。
「鎧は、気に入ったか」
「ありがとうございます。いえ、それより」
鎧のことなど、いまは頭から離れていた。
もう少し、時間があると思っていたのに。
「お前の副将に就きたいと、宇文平が志願していた。奴なりに気懸かりなのだろう。――雷梧、いろいろ学んで、強い男になれよ」
声は本当に小さく、吐息が音になっているだけだった。それでも時仁夏は休もうとせず、口を動かしている。
「お前に、謝らなければいけない。矢に当たったあの日、俺は、新兵のお前を盾にするつもりで連れていったんだ。敵が多すぎて、怖くてな」
雷梧は、少しだけ驚いた。しかし、憎くなど思わない。
それよりも、早く元気になって、僕を鍛えてください。
そう言いたいのに、どうしても嗚咽になってしまう。
時仁夏の細い手が、雷梧の頭をなでる。
「あの時、お前の決断が皆を救った。だからもし、お前が迷うようなときは、人のためになる方を選べ。それが正しい道だ」
その言葉を最後に、時仁夏は目を閉じ、動かなくなった。
雷梧はなんとか目を覚まさせようと、とりすがって叫んだ。
しかしそれは叶わなかった。