今までの私は自分を嫌う相手を避けて来た。でも、今のは私は彼女と向き合わなければならない。桃香の現状抱える問題について保護者の彼女と話し合うべきだ。
「それで、桃香さんの学校の件なのですが野次馬が沢山来られ問題になってるようです」
「いい傾向じゃない」
ふふんと得意げな桃香母。注目される事に価値を感じる彼女の価値観は私と真逆。私は目立って得なことなど何一つないと今までの人生でたどり着いた一つの答えを持っている。今、図らずも目立っているが、案の定敵意を向けられている。誰からも好かれる人間など存在しないと分かっていても、人から敵意を向けられるのは苦手。闇に紛れて、そっと幸せになりたい。
「学校の先生から、桃香さんが注意を受けたそうです。野次馬に対して学校と連携して何らかの対策をとるべきかと思います」
「桃香の担任教師はオールドミスみたいな女だから、桃香の人気に嫉妬しただけでしょ。別に桃香が嫌なら学校なんて行かなきゃ良いんだし」
桃香母の考え方に私は賛同できない。桃香はまだ中学1年生で、以前学校は楽しいと言っていた。そして、桃香母は全方向に敵意剥き出し。このような態度で接せられたら、敵をますます作る。学校側でも既にモンペ扱いされてそうだ。
「学校は行っておいた方が良いと思います。学校への相談ですが、宜しければ私も同行させてください」
「何よ。梨子社長、あんた桃香を本気で売る気があるの? 今が大事な時期なのよ。学校なんて行ってる場合じゃないでしょ」
桃香母は芸能人として売れれば学校は不要という考え。
「売れなかった時の保険として学校があるのではなく、中学校は義務教育ですし生きていく上での最低限の学力が身につきます。それに、芸能界という特殊な大人の世界では得られない経験は思い出になります」
確かに行かなくても、義務教育だから中卒の学歴は残る。でも、本当は学校に行きたい子に、行かなくて良いという桃香母。
「義務教育ね。学校教育って、今、何か役に立ってる? 毎日、因数分解とか使って生きてないわよね。思い出って何? 笑わせないでよ。それで、ご飯が食べれる? 梨子社長もルックスと腰使って成り上がったんでしょ」
まるで私が枕営業をしているかのような物言い。私は頭にきて冷静さを幾分失っていた。
「うちは、枕営業はしません。母親として桃香さんのこと、もっとちゃんと考えてください」
桃香母が桃香に枕営業してでも成り上がれと言っていた話を思い出し腹が立った。そんな事を言うなんて、まともな母親じゃない。
「はあ? 子供も産んで育てた事もないのに、何を偉そうに」
「すみません、お母様の言う通りです。でも、私から見てお母様の行動が桃香さんを苦しめてます」
彼女が桃香のプライバシーを発信した事は明らかにマイナス。しかしながら、もう少し言い方を変えれば良かった。桃香母は怒りで顔が真っ赤にして、応接室の扉を勢い良く開けた。扉を開いた先に不安そうな桃香がいた。13歳の彼女が私たちのやり取りをどんな思いで聞いてたのか想像さえできない。
「桃香行くわよ! こんなクソみたいな女がいる事務所で成功する訳ない」
桃香は不安そうな顔を浮かべながら、桃香母に連れられて事務所を出て行った。
苺とりんごが私に駆け寄ってくる。
「今日のイベントどうするんすか? 桃香がいなきゃ成り立たないパフォーマンスばかりですけれど⋯⋯」
苺の言葉に私は血の気が引いた。
「梨子社長、とりあえず先輩社長の為末社長に連絡してみては?」
りんごの言葉に私は名ばかりの社長だと反省する。社長と言ってもトラブルをどう回避して良いかも分からない。経営に対する専門知識もない。世界最高学府でビジネスを学んだ林太郎とは違う。彼を頼りたくはないけれど、今はそんな事を言っていられない。
私は震える手で林太郎に連絡をした。