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第61話 私の顔は可愛いよ(桃香視点)

「ママ、ごめんなさい。私は何度でも謝るよ。私を妊娠したせいで苦しい目にあったよね」


 私の言葉に母は驚いた表情を見せた。それが不思議で仕方がなかった。彼女は私に毎日のように私のせいで人生が台無しになったと言っていった。


「桃香は悪くないのよ。世の中、ルックスなの。桃香、整形しよう。韓国の人気女優とかは中学生の頃に親に整形手術に連れて行ってもらったんだって。私、桃香の為なら体売っても金を作るわ」


 頭が真っ白になった。私は自分の顔は鼻も低くて不満もあるが、そこも愛嬌だと思っていた。整形なんてしたくない。まだ、これから背も伸びたり成長する。私の大好きなママに似た顔をママが変えろと言っている。


「私の顔は可愛いよ⋯⋯」

「まあ、一般的には学校一可愛くても、芸能界で成功するくらいの顔にしなきゃ。ママも桃香くらいチャンスが残されてたら整形していたわ」


 ママの言うチャンスは年齢。ママは若ければ自分は成功していた。私を産まなければ成功してたそればっかりだ。でも、実際に芸能界に入るとそんな甘いものではない。綺麗なだけじゃない何かがある人じゃないと残れない。ママは売れなかったから、枕営業すれば売れてたとか、整形すれば売れてたとかたらればを言っているだけ。でも、絶対にママを責めてはいけない。ママは私のせいで夢を諦め将来を閉ざされた。


「整形したくない。今の顔が好き。ママに似てるし⋯⋯」


 ママの夢を叶えないといけない。でも、本当はアイドルは私の夢じゃない。学校でもアイドルをしているから、男子からずっとチヤホヤされる。そのせいか、仲良くしていた女友達からは距離を置かれ始めていた。『フルーティーズ』のメンバーが優しいお姉ちゃんばかりだからアイドルが出来ているが、本当はこの業界が苦手。足を引っ張りあったり、睨み合ったりしながらやっていける気がしない。特に将来の夢なんてしっかりしたものはないけれど、もっと学校に行って皆んなとワイワイ過ごしたい。


「ダメなのよそれじゃ。だんごっ鼻じゃ売れないの。そうだ、せっかくだから豊胸もする? おっぱい大きい方が売れるわよ」

 ママの声が遠くに聞こえる。ママの夢を叶えなきゃいけないのに、私はママに同意できない。ママの人生を台無しにしたのは私なのに償えない。


「お、おっぱいはこれから大きくなるから、整形だけにしよっかな」

 ママが納得する答えを必死に考え紡ぎ出した答え。メスを入れるなど怖い。私は自分が醜いと思った事はない。いつも可愛いと言われてきたし、自分もママに似た顔が好き。それでも、ママを納得させる為には整形しないといけない。


 殆どならないインターホンが鳴り、ママが首を傾げながら扉を開ける。扉の先にいたのは童話から出てきたような美しい王子様。お似合いだと囃し立てても、梨子さんに振り向いて貰えない残念イケメンの為末社長だった。


「きゃああ、為末社長。こんな所に何か御用でしょうか?」


 ママは為末社長を見るなり驚きのあまり腰を抜かした。ママが梨子姉さんを嫌いになった一番の原因が彼。ママ好みの色気のあるイケメン。ママより4歳も年下でお金を持っている。彼が梨子姉さんと熱愛報道が出た途端、ママの顔色が変わった。ママの梨子姉さんへの嫌悪感は完全に嫉妬。生まれも育ちも最高級品質の彼はこの場所にいると合成写真のようだ。彼がここに来たのは梨子姉さんに頼まれたからだろう。彼は本当に梨子姉さんが好きで仕方がないのだ。


「実は、プレゼントしたいマンションがありましてお邪魔しました」

 為末社長の言葉に私とママは顔を見合わせる。


「マンションをプレゼント?」

 ママが口をあんぐり開けている。

「桃香さんはこれからどんどん注目されます。今の住居ではセキュリティー的に不十分です」


「もしかして、オートロックとかコンシェルジュがいるようなマンションですか?」

「当然です」

 ママがいつになく目を輝かせていて、私も嬉しい気持ちになる。


「今のままでは、アイドルとしてセキュリティーが不十分です。桃香、苺、りんごには引っ越して頂きます」

「えっと、私は?」


「お母様も一緒に引っ越されると、本人の自立に繋がりません。『バシルーラ』の時は給与のほとんどを搾取されましたが、新事務所は違います。桃香は初任給のサラリーマンの3倍を稼ぐことになります。当然、金銭管理も自分でできるようにならねばなりません」


 ママが顔を顰める。私の稼いだお金は少しだったがママが管理していた。ママはそれをホストに貢いでる。働いていないママが生活するには私が必要。


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