お風呂から上がって、寝巻きに着替える。
私は妙に緊張していた。年下が恋愛対象外だと言っていた私はどこに行ったのか。イケメンは例外なのか。林太郎だから例外なのか。もはや、気持ちは迷宮入りしている。
私が変に意識すると、良からぬ方に自体が行くのが目に見えているので私は敢えて弟に接するように彼と接する事にした。
「林太郎!」
私が寝室を開けるとベッドに座ってこちらをじっと見る彼がいる。ベッドはキングサイズ。キングサイズのベッドとはシングル2つ分の広さ。つまり、シングルベッドにそれぞれ寝ていると考えれば、これは同衾ではない。
「おいできらり!」
手を広げられているが、そこに飛び込むと抱きしめられる未来が見える。
「喉、乾いた水が飲みたい」
「俺、持ってくるよ」
林太郎が立ち上がった。私は彼と接してきて分かった事がある。海外生活をしていたせいか彼は基本紳士。レディーファーストが身に付いている。「あれとって来い」系の男とは真逆で、女性は基本座っててといったタイプ。私は「ありがとう」と呟き、先にベッドの端っこに座った。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
林太郎が持ってきてくれた、ミネラルウォーターをグビグビと飲み干す。
「美味しいどこの水?」
「知らん」
私の質問に首を振りながら笑っている林太郎。彼は几帳面だが、特にこだわりの強いタイプではない。硬水しか飲まないとか言っている意識高い系でもない。私は彼について少しずつ知って来た。でも、その中でまだ分からないものがある。誰が見ても順風満帆な人生を歩んで来たように見える彼が見る悪夢とは何だろう。
「林太郎、寝よっか」
私はとりあえず布団に入りながら、彼の悩みを聞いて見ようと思った。いつも強くて完璧な彼。大企業の社長という立場上、弱みを見せられる相手もいないだろう。
林太郎も布団に入ってくるが、明らかに近い。ベッドの半分に2人で寝ている状態。
「もしかして、こっちサイドがお気に入り? 私、あっちに行こうか?」
「ダメ! ちゃんと添い寝して!」
なんだか、今までの彼は私の前で大人っぽく見せていたのに、今日の彼は年下の可愛さをこれでもかというくらい見せて来ている気がする。そして、それが私にはクリティカルヒットしている。年下など恋愛対象ではなかったはずなのに、このキュンはなんなのだろう。
「でも、せっかく広いから」
「温もりが欲しいんだ」
じっと見てくる林太郎の瞳に、少し男を感じて私は遠ざかる。思わずベッドの端から落ちそうになった。
「わっ!」
「危ないよ。もっと、こっちにおいで」
結局、私のことをギュッと抱きしめながら、彼は眠るつもりのようだ。いやらしいことしなければ、これで良いのかもしれない。私にも弟がいればこんな風に寝たり⋯⋯やっぱり、しない気がする。でも、アメリカナイズされた林太郎は家族間の距離が近いのかもしれない。メジャーリーガーや海外のスポーツ選手は「ママ最高だぜ!」的な家族への想いを高らかに叫ぶものだ。
薄手の寝巻きで体温が伝わってくるのが辛い。
「⋯⋯悪夢ってどんな? 話して楽になるなら私聞くよ」
「それは、これから考える」
じっと私の目を見つめながら言ってくる彼の言葉は相変わらずよく分からない。緊張して眠れないかと思ったが、思いの外疲れていて私はぐっすりと彼の腕の中で眠りについた。