目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第7章 禁じられる程に燃え上がる

第69話 ラスベガスに行くって事で良いよな。

「年末年始はラスベガスに行くって事で良いよな」

自分がまだ中学生の桃香に嫉妬していたのを反省する間もなく林太郎から声を掛けられる?


「よ、良くないよ。何の話をしてるの?」

 私は慌てて食事をする手を止めた。

気がつくと3人娘の目がキラキラとしている。


「本場のカイコ・デ・オレイユを見られるって事ですよ」

「う、うん⋯⋯でも、ただでさえ忙しいのに何で?」

私が疑問を投げかけると、林太郎がニコッと笑った。


「忙しく頑張っている皆んなにご褒美をあげないとな」

林太郎の言葉に3人娘が拍手をする。


「早速、パスポート作りに行かなきゃだね」

りんごが頬を染めながら、語る。

嫉妬に駆られて何でこんな話になっているのか理解できない。


「林太郎、どうしてラスベガスに行くの? せめてハワイアンズにしたら?」

慰安旅行的な事で行くとしても、ラスベガスは遠すぎる。


「ハワイアンズって福島? 今回ラスベガスに行くのは本場のエンタメを『フルーティーズ』が学ぶ為」

「そんなのラスベガスまで行く事ないんじゃない? 今は動画で何でも拾えるし」

私の言葉に林太郎がゆっくりと首を振る。


「ラスベガス帰りの『フルーティーズ』って称号を手に入れに行くんだよ」

林太郎の話が理解できているかのように、桃香が口を開いた。


「それは分かる気がする。歌手ってニューヨークに歌を学びに行ったとかで箔をつけてるよね」

桃香の言葉に林太郎がニコッと笑う。

胸がチクリと痛むのを感じた。


「それは薬抜きに行ってるだけでしょ。ニューヨーク帰りでも演技や英語ができるようになってないじゃん」

りんごの言葉はもっともだ。

大体不祥事があった後にある芸能人の海外留学。


対して英語も喋れるようになっていなければ、演技も棒のままだったりする。

それにしても、中学生にしては彼女達は大人の汚い世界を知りすぎている。


「『フルーティーズ』に薬物使用の疑いなんてかかってないから安心しなさい。中学校の短い冬休みに演技を勉強しに行く。とても素敵じゃん。皆、海外は初めてでしょ。絶対に刺激になって、良いパフォーマンスができるようになるよ」

林太郎の言葉に3人娘が笑顔になる。


「年末年始に海外旅行なんてお金はどうするの?」

「そんなの俺が出すに決まってるだろ」

金銭感覚が林太郎は私達庶民とは全然違う。


「林太郎、仕事は? 新しく作った会社の社長になったんじゃないの?」

「きらりが心配する事はないよ。楽しみだな。婚前旅行!」

「っな!!!」

私は彼の衝撃的な言葉に固まってしまった。


「私達もお供させて貰いますよ。楽しみだなー。私エジプトのピラミッドみたいなホテルに泊まりたい」

「ラクソー? 了解。他に希望はある?」

桃香のおねだりをあっさりと受け入れる林太郎。

こんな男に中学生なんて若い時から関わっていたら、後々困りそうだ。


「私はグランドキャニオン行きたい!」

りんごのおねだりは既にエンターテーメントは関係ない。

「いいよ。近いしね」

近いといっても渋谷と原宿ほどは近くないはずだ。

私はアメリカの地理は詳しくないし、勝手にさせておくことにした。


「ラスベガスってそこらへんで無料でショーがやってるって本当っすか?」

苺が目を輝かせていった言葉に、林太郎が静かに頷く。

「本当だよ。トレジャーアイランドってホテルの前では海賊ショーがやってるし、ベラッチオの前では噴水ショーがやってる。エンタメの真髄を見られるから、きっと成長できる」

林太郎の言葉に苺が頬を染める。

(これは苺も林太郎に惚れてしまうんじゃ⋯⋯)


カッコよくて、自分の気持ちをわかろうとしてくれて、ケチ臭くない。

不安な時にグイグイ引っ張ってくれるような男。


「何? 俺の事さっきからじっと見つめてるけど、何かきらりも希望ある?」

突然、林太郎に見つめられて私は固まってしまった。

年下なんて恋愛対象外と豪語した癖に今、間違いなく私は彼を男として見てる。


「希望とかは特にないけれど、どうして急にラスベガスに行くなんて事になったの?」

「それはさっきも言ったように箔を付ける為と日頃頑張っているご褒美! それに今年は9連休だしな」

「そっか、それもそうだね」

私は疑問を感じながらも頷くしかなかった。

年末年始やお盆といった旅行代金が高い時期に旅行などした事はない。

それでも、3人娘が嬉しそうで、日頃学校に仕事に頑張っている彼女達にはご褒美があった方が良い気がする。


(それに⋯⋯)

私はちらりと林太郎を覗き見た。

すると私の視線に気が付いたかのように彼が微笑む。

実は私も林太郎と旅行に行ったら楽しめるような気がしていた。

雅紀と旅行に行くときは、何から何まで私がプランニングした。

こんな風に願いを叶えてくれる神龍が主導の旅行は初めて。

何だか、ワクワクしていた。


「じゃあ、みんな旅行を楽しみにオレンジランドのイベント頑張らないとね!」

「オー!」

3人娘が楽しそうに笑う。

私達はラスベガス旅行という人参を吊るされ、ハードな毎日を過ごすのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?