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第71話 人参を吊るして常に走らせるのは基本。


「今週末、ルルポート豊洲でコンサートをする」

「今更、ショッピングモールで無料コンサート?!」


私は自分でも自然とでた言葉に驚いてしまった。

無料のショッピングモールならば人を集められていた『フルーティーズ』。

しかしながら、度重なる有料コンサートをオレンジランドで開催したことにより、『フルーティーズ』のイベントは無料で見られないものという意識ができている。


私の考えている事に気がついた林太郎がニヤリと笑った。


「ルルポート豊洲は特殊な地域だ。半径500メートル以内に1000人規模の小学校が3つもある」

「そんなに子供がいるの? なんで?」

「湾岸のタワマン乱立地域だから。小学生と未就学児が爆発的に多い」

「子供がお仕事体験できるキッズランドもあるよね」


林太郎が私の言葉にゆっくりと頷く。元々住んでいる子達に加えて、子供向けの施設がある場所。

確かに沢山の子供が集まりそうだ。


「中学生のおしゃれな女の子っていうのは、小学生以下の女の子の憧れなんだよ」

私は林太郎の言いたい事を理解した。確かに美少女戦士ブレザーサンもプリティーキュアも中学生だ。

私も子供の時に変身ステッキを買って貰った覚えがある。


「その時、私は保護者枠だね」

林太郎が私の手をポンポンと叩く。

以前の彼は私にしょっちゅうキスをしてきたが、最近はポンポンが多い。

これは彼が桃香達にもやる仕草だ。

(別にキスして欲しいわけじゃないけど)


「子供達の間で爆発的にヒットすれば、運動会やお遊戯回でも使って貰える」

「そうだね。でも、『フルーティーズ』のメインのお客さんってアイドルオタクというか、ロリコンの傾向のあるおじさんだよね。イベントに子供が集まってトラブルにならないかな」

「豊洲行ったことある? そういうアイドルオタクが居ずらいファミリーエリアだよ」

「ない」

秋葉原に子供が居ずらいのとは真逆の場所ということだ。


「子供に対してお金を掛ける傾向の小金持ちが多いから、グッズが売れるよ」

「まずはグッズをヒット商品にして、曲を浸透させるって事だね。それにしても、休みなく働いてあの子達は大丈夫かな?」

「ご褒美旅行があるから平気だよ。流石に来年9月までは持たないけど、年末までは持つ。人参を吊るして常に走らせるのは基本」

「⋯⋯そっか」

林太郎が頑張ってくれているのは分かるが、私は彼の言葉の端々が気になり始めていた。

「小金持ち」「人参を吊るす」など、どこか人を小馬鹿にしたような物言いが苦手。


「なんか言いたいことある?」

小首を傾げて聞いてくる彼の少し幼い仕草にはキュンとする。

彼はまだまだ若いから、言葉尻を捉えて非難するのはいけないと思い直した。




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