年末年始のアメリカ旅行が終わると、苺がルナさんの曲に詞をつけてきた。
桜が舞い落ちるような儚い感じの歌詞は、今までの私達にはなかった大人っぽいものだ。
「卒業ソング? 切ない感じがする。こんな詞が書けるなんて凄い」
私の言葉に苺が胸を張る。
「為末社長と梨子姉さんを観察してたら、書けちゃいました」
カイコ・デ・オレイユでも、ブロードウェイミュージカルでもなく、私と林太郎を見てインスピレーションが湧くなんて若い子は凄い。
「この曲の発表に合わせて、私達の9月の卒業も発表しませんか?」
「えっ? まだ、8ヶ月もあるのに早くない?」
りんごの提案に私は驚いてしまった。上り調子の今、卒業を発表するのは如何なものか。
「私は賛成です! 私達は卒業にピークを持ってきて、伝説のアイドルになるんですから!」
「卒業にピーク? 勿体無い感が凄くない?」
桃香の言葉に驚いてしまう。でも、ピークを武道館での満員御礼公演とするならば、9月に公演を成功させるのがギリギリかもしれない。
アイドルに詳しくなく分からないが、黒字公演をするには満員に加えグッズを売りまくらないといけない武道館公演。今のところ、そんな成功風景が想像できない。
「伝説のアイドルか。いいねそれ!」
「為末社長に言われたんだ。伝説のアイドルになって辞めれば、日本に戻ってケーキ屋開く時も話題になるって」
りんごと桃香の会話に目を瞬く。
「えっ?桃香、何処か行くの?」
「私、アイドル引退したらフランスに留学します。一流のパティシエになって帰ってくるんです」
夢いっぱいのキラキラした瞳で語る桃香。失礼だがフランス留学のお金を桃香の家が工面できるようには見えない。
(林太郎が留学もお世話してあげるんだ⋯⋯)
何故、こんなに桃香を林太郎が特別扱いするのか分からない。そして、その事実に少しモヤモヤする自分も理解不能。
「じゃあ、この卒業ソングのタイトル決めようか」
「タイトルは今決めました。『卒業は終わりの始まり』でどうでしょう」
苺がドヤ顔で伝えてきたタイトルは漫画のプロローグのようなタイトル。
「いいかもしれないね。私達も卒業から新生活を始めるし⋯⋯」
何となく覚え易いタイトルで私は同意する。ミュージカルの時も思ったが、私は『シカゴ』の主人公ロキシーの歌っている時のフリを何となく覚えている。
一度しか観てないのに、時間が経った今でも脳裏にやきついているのだ。分かり易い覚え易さはヒットの条件の1つの気がしてきた。
2月に発表したこの卒業ソングが、空前の大ヒットになるとはこの時は思ってもいなかった。未来は本当に誰にも分からない。