北から札幌、東京、大阪、名古屋と来て明日から広島公演だ。
私達は『フルーティーズ』は中心部から少し離れたグランドプリンスホテル広島のスイートルームに泊まった。なんと、あのG7がとまったホテルらしい。窓から見る瀬戸内海の風景は絵のように美しいが、私達にはのんびり風景を見る時間もない。
ラウンジサービスがついているのに、私達は部屋でカップラーメンを頬張っている。一度、外に出れば大衆の目に晒さられ行動をチェクされる。なかなか気が休まらない。期間限定だから耐えられるが、私は芸能人に向いていない。人目を気にする生活にストレスを感じていた。
「明日は為末社長も観に来てくれますね」
桃香が嬉しそうにしている。私は林太郎と桃香の関係に相変わらずモヤモヤしていた。
光源氏が自分好みに若紫を育てたような関係なのだろうか。友達の私が口出しする権利はないが気にかかる。
「そうだね。チケットもソールドアウトしてホッとしたー」
林太郎の言った通り、他の都市にが即日ソールドアウトしたのに対し広島公演のチケットが売れるのがスローペースだった。
移動中、広島の風景を見たが野球の応援ユニホームを着ている人や、スーツケースを引いている観光客ばかり。私達を観に来てくれるファンが本当にいるのか不安になった。
翌日、私の不安を打ち消すようにグリーンアリーナにはファンが押し寄せている。今日は野球もサッカーも試合がある日。
それに加えて『フルーティーズ』の公演で広島のホテルはパンク状態。昨日からテレビでは広島協奏曲として、混雑がとりだたされていた。きっと、これも『フルーティーズ』の露出を増やす為の作戦だろう。
私達は控え室で、今までにない緊張をしていた。
「結構、外国人のお客様いるね。欧米系の方もちらほら⋯⋯」
今まで観客が日本人ばかりのコンサートをしていたので、不安になる。衣装も日本の『可愛い』を意識したものだし、海外の方の感覚で見ると幼く見えそうで心配。
「世界的に私らの動画バズってるらしいですよ。中華系の方って割と世界中にいるし。為末社長の戦略当たりまくりですね」
りんごは最初はあまり林太郎と仲が悪そうに見えたが、最近は彼を慕っている。体育会系らしく尊敬の念が信頼に変わっていった感じだ。林太郎の戦略通り、上海のツアー当選者が次々と動画をアップして、それが世界各国に『卒業間近の日本の可愛いアイドル』として広まった,
「英語の歌詞の部分の発音とか大丈夫かな? 詞を書いた時、完全にアメリカかぶれになってた私を全力で殴りたいっす」
苺が心配しているが、多分平気。前に職場に来た外国人が日本の歌手で英語が上手いのは一部。あとは悲惨で何言ってるか分からないと言っていた。
きっと、私達に求められているのは英語の発音じゃない。
みんなが見たいのは、青春を賭けた可愛い子達の短くも強い輝き。
(私は三十路だけど⋯⋯)
控え室の扉をノックして、林太郎が顔を出す。
「みんな緊張してる? 今までの状況と違うからこそ貴重だろ。外国人にも人気の『フルーティーズ』として、また人気が出るぞ」
林太郎の言葉に3人娘の緊張が解けてくのが分かった。彼の言う通りにしていたら成果を出せて来た成功体験が彼女達の自信に繋がっている。
「よし行こうか。みんな円陣組むよ」
私の言葉に3人娘が近寄ってくる。私達は顔を見合わせ円陣を組んだ。
「行くぞ、『フルーティーズ』広島ゴー」
「「「オー」」」
私の叫びに何故か林太郎は笑っている。最近疲れが蓄積していて、円陣を組んだ時も何を言って良いか頭に浮かばない。
(これから、3時間近くノンストップで頑張んなきゃ)