ステージでは楽しそうに笑顔で笑わなければならない。でも、最近何が楽しいのか分からない。ただ、私の半分しか生きてないような仲間が必死に頑張ってるから、責任感で表情を作って身体を動かしているだけ。
私を心配そうに見つめる林太郎と目が合ったがそっと逸らした。彼の顔を見ると弱音を吐きたくなりそうだ。
公演は熱狂の中で終わった。他の会場とか異なるノリだったが、良い経験になった。3人娘はライブの後は興奮状態。私はお迎えが来るまで机で伏せっていた。ルックスのせいで誤解されて来たが、元々内向きな性格。明るく溌剌に振る舞っているだけで疲れる。
不意に肩を叩かれる。顔を上げると涼やかな美しい林太郎の顔がそこにあった。
「きらり、まだ、野球の試合やってるけど行きたかったら連れてくよ」
野球の試合?
野球観戦が好きだった時もあるけど今は疲れてる。とにかく、今は休みたいのに!!
「行きたくない! 疲れてるの。早く休みたいの。わけわからない事言って私を余計疲れさせないでよ!!」
私の言葉に林太郎が驚いたような顔をしている。私も自分がこんなヒステリックだとは思わなかった。ストレスのせいか、最近自分が自分でないような感覚もある。
「きらり、大丈夫か? 少し熱もあるっぽいし」
「微熱が続いているだけだから」
林太郎が私の隣に座り、額に手のひらを当ててくる。ひんやりとしたその手の感触なら心が休まる。微熱が続いているのはストレスからの自律神経の乱れ。
八つ当たりしたのに林太郎は私を責めない。彼の澄んだ瞳を見てたら涙が溢れて来た。それに気付いた彼がグッズの帽子を私に目深に被せてくる。帽子の上から撫でてくれる手の感触を確かめた。
その時、林太郎の秘書らしき眼鏡の男性が部屋に飛び込んで来る。
「社長! 広島から大阪の新幹線が止まってます」
「該当区間の新幹線使う観客は申し出るようにアナウンスして。飛行機、バスで代替え輸送する。こちらで交通費は全負担するから」
「全負担ですか?」
秘書の方が固まっている。現在、夜の9時。この時間でも、周辺ホテルに泊まらずトンボ帰りする人がいるのだろうか。
「俺のポケットマネーなら、文句ないだろう。状況わからず駅に向かう客が出る前に迅速に対応しろ」
林太郎の言葉に秘書の人が部屋を飛び出す。しばらくするとアナウンスが流れた。
『現在、広島から大阪間の新幹線が止まっております。本日中の復旧は難しいとの事です。該当区間の新幹線にお乗り予定の方はスタッフまでお声掛けください』
「凄い、神対応だ⋯⋯」
りんごが口をぽかんと開けて呟く。私は先程のヒステリックな自分をメンバーに見られてたようで恥ずかしくなる。
「林太郎、どうしてそこまで?」
「遠征してきている観客って多分そこまで多くない。でも、周辺ホテルにがとれなくても、遠くからきらりを⋯⋯『フルーティーズ』を観に来てくれたんだ」
「うん」
「その『大きな好き』は応援したいかな。俺も好きだから。嫌な思い出で終わらせたくないんだ」
私の瞳を覗き込むような彼の言葉に心臓が止まりそうな程にドキッとする。『フルーティーズ』が好きと言う意味と分かっているのに、自分が告白されている気分になった。
私と彼の間にもうそんな雰囲気はないのに、私ばかりが意識し始めている。
(思わせぶりな悪い男だな)
凄く疲れていたのに、卒業までは全力で頑張れるだけの力をもらった。