2人きりの結婚式の最後は花火が上がる。
「凄い。どこかの花火大会」
「ぷっ、そんな訳ないだろう。きらりの為だけにあげたんだよ」
花火にの光に照らされた林太郎の顔が美しい。私は好きな人と結婚した。結婚とはおそらく歩み寄り。価値観が違くても、何考えてるか分からなくても私は彼を愛してる。
「林太郎、花火見ないの?」
花火を見ていても、ずっと見つめてくる林太郎の視線を感じる。東京より光の少ない夜空み舞うスターマインの華やかな輝きも一瞬で消えた。
数秒も見逃さないように見ないともったいないのに、林太郎はずっと私だけを見ている。
「花火より、きらりを見ていたい」
私は彼の首に手を回し口付けをした。そのキスがどんどん深くなり、私達はその晩お互いの存在を確かめ合うように愛し合った、
そして、バリ島について5日目。今日はパターゴルフをしている。毎晩のように激しく愛し合う日々。いわば、常に運動している状態。
(新婚旅行というより、新婚合宿⋯⋯)
既に身体中が筋肉痛で悲鳴を上げている。私と異なり元気な林太郎に、はち切れんばかりの若さを感じた。
「林太郎、流石に明日は日本に帰るし、この後は観光に行かない?」
「えー、面倒だよ、いつも通り部屋に戻ってイチャイチャしよ」
顔を顰めながらむくれる彼は私の要望を聞く事に飽きたらしい。
「林太郎って、色々なところ行くのが好きなんだと思ってた。アメリカ旅行の時は色々観光案内してくれたよね」
「あの時は、渋谷雄也から逃げる目的があったからね。はい、入った。また、俺の勝ち。きらり、パターはあんまり上手くないね」
私はこの時になって、彼は私を落とす為に動いていただけだと理解した。
もしかしたら、私を落としゲームに勝った事で彼は満足してるのかもしれない。
私が別れを告げた時、雄也さんは手が震えていた。彼は本当に私を好きでいてくれた。でも、眼前にいる男はどうだろう。何を考えてるか相変わらず分からない。
婚姻届にサインして、何度キスして、身体を重ねても、私が彼の気持ちを信用できる日は来ない気がする。
「林太郎、日本に戻ったら、まずお互いの両親に挨拶に行こう」
「だから、それは気にしなくて良いって」
「私が気にするの。少しは私の言う事を聞いて!」
私の怒気を含んだ声に林太郎は驚いたように目を瞬かせてる。
私は贅沢がしたいわけではない。愛する人とホッとするような家庭を築きたい。家庭人の彼のイメージが全く湧かない。彼は26歳の
若い男の子で本当は彼自身も結婚のイメージなど持ってなかったのだろう。きっと、彼は雄也さんから私を勝ちとりたかっただけ。
「いいよ。まあ、いずれは会わすつもりだったしね。俺の母親、モデルのMARIAだよ」
林太郎は突然、挑戦的な目付きで私を見てくる。
「えっ、そうなの? どこかの社長と結婚して引退したけど、ドラマで主演とかもしてたやね」
モデルのMARIAといえば、私でも知っている。スタイル抜群で正統派の美人。凛とした演技が評判で弁護士もののドラマで主演していた。頂点を極めたのに、結婚と共に引退。若くして引退してから、一切メディアには出ていない。
「もしかして、自分と同じように人前に出るのが苦手な人とか思ってない?」
「⋯⋯」
「うちの母が芸能界に入った目的が大富豪と結婚する事だったから引退しただけ。母は承認欲求の化け物みたいな女だよ。今のきらり嫌がらせに耐えられるとは思えない」
「嫌がらせ? 私、義理のお母様とは上手くやりたいんだけど」
「そもそも、母は人と上手くやろうって性格じゃない。でも、うちの母に会えば芸能界で成功する人間の性質の勉強になるかもね」
私はアイドルグループとして芸能界で成功した気になっていた。でも、林太郎の庇護の元の成功であることは確か。これから、私はりんごをタレント、苺をシンガーソングライターとして成功させたい。モデルとしても女優としても成功しているMARIAの生き様は参考になりそうだ。
「私は林太郎のお母様と仲良くなるよ」
「頭、上から目線で人を小馬鹿にしたような人だよ。まあ、頑張ってね」
私は、林太郎の性格が母親似である事だけは分かった。
「じゃあ、ヴィラに戻ってイチャイチャしようか」
ふわっと身体が宙に浮く。私は林太郎にお姫様抱っこされていた。
「ちょっと待って! 観光は?」
「観光なんて疲れるだけだって。母と対決するんだったら、俺とイチャイチャして英気を養った方がよいよ」
何かと理由をつけて自分のやりたい事をやる彼。頭にくるけど、幸せそうに笑うところを見ると許せてしまう。
雅紀の我儘を14年も許してきた私。今度こそ自己中な男は避けたかったが、結局失敗。林太郎の強引で我儘な性格も肌を合わせるとどうでも良くなる。しかし、今度はそんな身体の相性の良さがどうでも良くなるような事件が起こるとは、この時の私は知らなかった。