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第11章 勝って兜の緒を絞めよ

第100話 私、ママに虐められててパパの戸籍に入りたいです。(桃香視点)


  『フルーティーズ』が売れ出した3月あたりから、私の父親だと名乗る人間から何人か連絡があった。

 私が未婚のシングルマザーに育てられていると言う話は、私が話さなくても世間では知れ渡っている。


 ママが高校生の時に妊娠すると分かると逃げた人が、捨てたはずの私が売れて有名になり惜しくなり現れた。

私が売れなければ、最後まで認知もせず逃げたくせに白々しい。下手な猿芝居をして近づいてくる自称父親にに辟易とした。


 苺のように作詞の才能もなく、りんごのような抜群の身体能力もない私。

私の顔は可愛いが、「クラスで一番可愛い」レベル。


 誰もが振り向いてしまう梨子姉さんのような芸能人レベルの美しさはない。

そんな私だが、蜜柑が抜けて梨子姉さんが加入した『フルーティーズ』では一番人気。


『中学生なのに家計を支えて頑張っている桃香』

『桃香は苦労人だから優しい子。推せる!』

『最年少なのに、実は桃香が一番歌が上手い』


 私の評価には必ず「最年少なのに」、「親が未婚のシングルマザー」、「貧困家庭の子」といった枕詞が入った。

 同情して気持ちよくなり金を落としてくれるなら、どうぞ同情して欲しい。

私も自分の境遇が幸せだとは思っていない。



『桃香、まさかお前の母さんが産んだとは思ってなくて⋯⋯でも、目鼻立ちとか俺と桃香って似てるだろ。どうしても、他人とは思えないんだ。』

 私の父親として名乗り出た中の1人、澤田正孝。

 ビシッとしたスーツ姿をしたホワイトカラーの彼はどこからどう見てもちゃんとした社会人。

 ママを妊娠させてとんずらした事など、彼にとっては若気の至りに過ぎなかったのだろう。

(ママが出産したことさえ知らなかった?)


 ⋯⋯そんなはずはない。

 おそらくママの証言、「妊娠したと告げたら堕ろせと言われたが、中絶できる週数を過ぎていた」は恐らく真実。

私に対して恨み言のようにママが何度も言ってきた言葉で、何度もその言葉に傷ついて来た。私は鑑定する前から、彼が実の父親だと何となく感じていた。

眼前に現れた彼はぺちゃっとした鼻の形が私とそっくりで、ママが私の鼻を整形して欲しい理由を察した。



  澤田正孝は、私を殺そうとした癖に金脈を掘り当てたように連絡してきた薄情な男。

自分の半分も生きていない私など、簡単にマリオネットにできると思ってるのだろう。

私がこの1年で稼いだ額は8000万円。何も知らないウブな中学生と思わないで欲しい。


私の事をただの中学生と舐めている彼に辟易しながら、 それでも吐き気のする演技に敢えて騙されてやる。



『そうだったんですね。DNA鑑定しましょうか。私もパパが欲しかったんです』

私は今まで父親だと名乗り出てきた男に言った定型句を言う。


シングルマザーに育てられた苦労人アイドルという称号もあり私は同情票でファンを獲得してきた。

その弊害か、害虫のように自称父親が群がってくる。


DNA鑑定ののち、本当の父親と認められた澤田正孝は歓喜した。


『嬉しいです。パパと呼んで良いですか? 私、ママに虐められててパパの戸籍に入りたいです』


 トップアイドルの称号は、私を子だと認めなかった無責任男を動かした。

 澤田正孝は私を認知したらママの私への虐待と、自分の経済力を主張し出した。

 ママの私への虐待の証拠は幾らでもあった。前のアパートの近所の人が私がしょっちゅう家から締め出されていたと証言してくれた。



 ママは金ヅルだった私を手放す羽目になる。私はママにずっと尽くさなければならないという洗脳を掛けられてきた。


 その洗脳が解けたのは為末林太郎のお陰。彼が私に近付いたのは、梨子姉さんを落とす為。

彼は計画通りに、自分に全く気持ちがなかった彼女を落とし結婚した。


 彼から学んだのは、欲しいものを手に入れる為には手段を選ばない事。

 中学1年生の子供や、梨子姉さんの不安まで利用して彼女を手に入れたのは見事としか言いようがない。


 梨子姉さんは私達3人とは全く違う。

 私達3人は注目され売れる程、アドレナリンが出て芸能界の魅力を知っていった。


 私もママから言われイヤイヤ続けていたアイドルだったが、売れてから毎月入金される通帳の額を見て気持ちが変わっていった。

毎週入金される額は『バシルーラ』時代の3万円から300万円になり、卒業直前の月収は5000万円。

 パティシエになって元トップアイドルとして店を出せば良いと為末社長に薦められたがその通りだ。


今、原価10分の1以下の景品のようなグッズに大金を出してくれているファンはグッズが欲しい訳ではない。


⋯⋯私を応援したいのだ。


そんな熱狂的なファンは私が何年後に戻ってきて、店を出したらきっと会いに来る。



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