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第13章 ピンチは突然に

第114話 終わりは始まり何だぜ。

あれから5年の時が経って、私は36歳になった。

私は今、4歳の息子、蓮がいる。

結婚当初は離婚だなんだと言ったことが嘘のように今、林太郎はすっかり良いお父さんだ。


苺はシンガーソングライターとして順調に売れていて、うちの事務所の稼ぎ頭だ。

爽やかで純粋な感じが受け、CM8本に出演している。


りんごは大学に通いながら、セーブしながら芸能活動を続けていた。

主にバラエティーの出演などのタレント活動で、少しだけドラマに出たこともある。


仕事も、プライベートも順調のはずだった。


ピンチというものは突然やってくる。


週刊誌に苺と倉橋カイトの不倫疑惑の記事が出たのだ。


今、苺を呼んで事務所で私は頭を抱えながら事情聴取をしている。

正直、彼女が不倫をするなんて信じられない。

5年で彼女も大人になった。

出会った頃は妙な体育会系の話し方をしていたが、今は落ち着いた口調になっている。

そんな彼女もこの状況には混乱しているようだ。


苺は泣きながら私に訴える。

「カイトが結婚してたなんて一言も聞いてないです。私と結婚したいなんて話もしてたんですよ」

彼女の言い分は本当だろう。

イケダンズ倉橋カイトは様々なスキャンダルがあったが、結婚報道はない。

客観的に見て結婚したらファンの半分は消える売り方をしているアイドルだ。


でも、実は3年前に元々付き合っていた年上のセクシー女優と結婚していたらしい。


「私は苺の言い分を信じているよ」


苺は嘘を吐いてはいない。それは、彼女をずっと見てきたから分かる。

魑魅魍魎が渦巻く芸能界で、汚れた感じがないのが彼女の特徴。


それにしても、素行不良の倉橋カイトと苺が付き合っていたとは私も知らなかった。

彼はお嬢様の黒田蜜柑とも付き合っていたし、ストライクゾーンが広いプレイポーイのようだ。


もう少し男を見る目を持てと注意したいところだが、私も人のことは言えない。

だからこそ、何とかしたいと思うが良い案が浮かばない。


「でも、自宅に行ったのは迂闊だったかな?」

「自宅に呼ばれたから、てっきり私と真剣交際だと思ってたんですよ」

私が責めていると思ったのか、苺はますます泣いてしまった。


今回の不倫報道で酷く叩かれているのは、妊娠中で里帰りしている妻の留守に自宅に不倫相手を呼んだこと。


いわゆる一番女性が怒る妻が妊娠中の不倫を倉橋カイトはしてしまった。

結婚でライトファンが減り、不倫でディープなファンがも幻滅し、不倫した状況で昔からのファンはアンチに変わるだろう。

正直、クズ男のことはどうでも良い。

問題はそんな男に騙されてしまったことで、仕事を失い叩かれる苺だ。


「初めての彼氏だったのに、うぇ⋯⋯」

ボロボロ泣く苺が可哀想で仕方がない。

男を見る目がないというのは、頑張ってきたものを全て失うというくらい重罪。

それは30歳の私が仕事を失った時に思い知った。


「もう、クズな倉橋カイトの事は忘れなさい」

「⋯⋯もう、恋なんて絶対したくないです。誰も好きにならない⋯⋯」

絶望する苺を慰め続けたいが、私は今この問題にどう向き合うかで悩んでいた。


会見を開いて謝罪。

でも、一体何に謝るの?


頭の中が混乱している。

苺は19歳の普通の女の子。

恋愛禁止のアイドルでもなく、実力で評価され始めてるアーティスト。

でも、彼女が売れたのは実力というより爽やかで純なイメージ。


それが今回の不倫報道で崩壊した。

「違約金5億絶対払います。もう、仕事も無くなるでしょうし、臓器売ってでも私が責任持って払います」

週刊誌にはCM8本の違約金は5億になるだろうと書かれていた。

何も悪いことしてないのに、男を見る目がないだけで5億払い叩かれる。


もはや、苺の現状が人ごととは思えない。

あの時、私はルナさんに助けられ、親友に助けられ、仲間に助けられた。


今度こそ私が彼女を助けたい。

「せめて、結婚してた事を知らなかったと証明できればな」

「どうやって? こんな風に言われてるのに」

苺がスマホを見せてくる。


『今度赤ちゃんが産まれる自宅まで行ってベビーベッドの横とかで不倫したのか? クズだな』

『自分が妊娠中不倫されたのを思い出した。苺の顔見るだけで吐き気がする』

『苺の恋愛ソングピュアで感動してたのに、完全に不倫ソングにしか聞こえない』

『産まれる赤ちゃんに申し訳ないと思わないのかね苺ってサイコパスだろ』


ニュースサイトをスクロールしていくと書かれているコメントは酷いものばかりだ。

「苺、気になるのはわかるけど、今はどう対応していくか考えないと。今まで、倉橋カイトとやり取りしたメッセージとか見せてくれる?」

メッセージの中に結婚を仄めかすものがある事を期待した。

苺が渡してきたスマホを見て私はため息を吐いた。


倉橋カイトは生粋の遊び慣れた男だったようだ。

決定的な二股の証拠も、結婚といったワードも証拠に残る形でメッセージに残していない。

頭を抱えていたところ、扉が開く。


私の愛しの夫が可愛い息子を連れてそこにいた。

保育園のお迎えまではまだ時間があるのに、もう迎えに行ったらしい。

「ママー」

蓮が私の方に駆け寄ってくる。

正直、子供に聞かせるような話をしている時ではないのに戸惑ってしまう。


「何落ち込んでるんだよ」

林太郎が軽い感じで苺をこづいていて、私は驚きのあまり金魚のようにパクパクしてしまった。

(この状況で、号泣する女の子に対してサイコパスかお前は!)


「為末社長、私はもう終わりです」

苺が顔を手で覆ってますます泣き出す。

「そんな訳ないじゃん、終わりは始まり何だぜ。倉橋カイトを訴えるぞ」

やはり林太郎は私の想像を超えてきた。

でも、頼りになる私の旦那様だ。

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