雄也さんとルリさんに送り出され、私は扉の前の父の元まで行く。
「とうとう、きらりも結婚か」
「結婚自体は5年前にしてるけどね」
おどけたように笑って見せる。
私はアイドルはやったことがあるが、女優の経験はない。
それでも、大切なものを守る為ならいくらでも演技をする。
「お父さん、今まで育ててくれてありがとう」
重々しいエンジの扉が開くと、赤いカーペットの先に林太郎が見えた。
私を見ると目を輝かせる彼が愛おしい。
彼の顔を曇らせるような事はしたくない。
一歩、一歩と父とバージンロードを歩く。
列席者席に息子の蓮が母といた。
いつも家に一緒にいる私を食い入るように見ている蓮が可愛い。
反対側の席を見ると、雄也さんとルナさんが座っていた。二人は結婚式の列席者とは思えないくらい真っ青な顔をしている。
私の見通しの甘さが招いた事だ。マリアさんとは、あれだけイザコザがあって喧嘩別れしたのに、時が解決して私と林太郎を祝ってくれるなどと簡単に考えていた。
何でも解決してくれるスーパー林太郎がお手上げで縁まで切ったのに、結婚式くらいはと私が半ば強引にマリアさんに招待状を送った。
顔も名前も知らぬ受付に売られた不倫スキャンダルで、人の妬みの怖さを知ったはずなのに情けない。
マリアさんにとって私は夫と息子を奪った恨みの対象でしかないのだろう。
ルナさんの隣に座っているのはルナさんの息子のノゾム君と彼女の母親だ。
もう直ぐ小学生になるというノゾム君は静かに行儀良く座っている。蓮は自由に育て過ぎているけれど、こういう場でも静かにできるように躾をしっかりしたい。
私は自分を安心させるように、帰ってからの穏やかな生活を考えながら一歩また一歩と歩みを進めた。
林太郎の前まで来ると、一瞬驚いた顔をした。
レースのベールとウェディングドレスは彼と選んだものだ。
腰回りのふわふわレースが増量し、頭に花冠をつけているのだから予定と違うと思ったのだろう。
私は彼を驚かせようとしたとばかりにニヤリと笑うと、彼も微笑みを返してきた。
「汝、為末林太郎は、この梨田きらりを妻とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」
神父がゆっくりと誓いの言葉を読み上げる。
「はい、誓います」
私を愛おしそうに見る林太郎の幸せそうな笑顔を見て、この笑顔をずっと守りたいと思った。
「汝、梨田きらりは、この為末林太郎を夫とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分つまで愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」
「はい、誓います」
結婚して三年、すっかり為末きらりという名前に慣れてしまったが梨田きらりという名前は気に入っている。
私の苗字に果物の名前が入っているから、私は『フルーティーズ』にスカウトされた。
バシルーラという問題事務所のは言っていた雑居ビルに向かったから、林太郎と出会えた。
私がアンチ御曹司だと知り、最初は身元を隠して私と接していた彼。
いつから彼が私を好きだったかは分からないけれど、私は最初は彼を恋愛対象として見ていなかった。
アイドルという高ストレス化で頼りになる彼に気持ちを持ってかれた。
でも、その恋から覚めるのは早かった。
勢いのまま結婚した私だったが、一週間で彼との性格の不一致を感じていた。
それでも、可愛い蓮という宝物を設け、二人で未熟なりに子育てをする内に愛が芽生えたと思う。
やはり、彼の言った通りだった。
私と彼ならば、恋がなくなっても別のものが生まれる。
誓いの口付けを交わし、私たちの挙式は終わった。少しフラフラするけれど、気持ちを張っていれば大丈夫だ。都市を回ったツアーの時も殆ど寝ないで気力だけで頑張った。体も心も悲鳴をあげていたけれど、林太郎が支えてくれた。今度は私が彼を支える番だ。彼の母親のした事が明らかになったら、林太郎が傷つく。私が彼の心を今度は守って見せる。