サプライズにとリーダーが用意したのは学生時代を振り返るスライドショーだった。
皆がそれにくぎ付けになった。拍手と歓声と共に再生されたそれが写したのは入学式、文化祭に体育祭、各々の部活動に学校生活の日々。さらには修学旅行に卒業式といった内容が次から次へとスクリーンに映し出されていく。
「こりゃすごいな――」
ボスはそれを褒めていた。途中一枚の写真を見るまでは。
皆がそれを見てボスに視線が集まった。その一枚のスライドに大きく映っていたのは亡くなったマネージャーの姿。
「あーそういやマネージャーいたな……」
「あれでしょ?あのクソ野郎に殺されたんでしょ?」
「そうそう。世間じゃ父がやったとかいうけどどう考えても父にやらせたってやつな」
「ばか。声がでけぇよ」
大盛況の雰囲気に水を差した一枚のスライドの次には端に一人の男が映っていた。やじは淡々と大きくなる。
「あ……こいつだ!!こいつのせいでその年の大会でマスコミとかに――」
「だからやめろって」
周囲の不穏な雰囲気は大きくなる。学生時代を切り取ったスライドはやがて明るい音楽と共に終わりを告げ、暗いフロアの明かりは戻る。
そこには先ほどまでの明るい雰囲気はなく、ただ周囲はボスに視線が集まっていた。
「あ……気にすんな。もう終わったことだ」
笑って彼は返す。
「それに今日はリーダーが一生懸命企画してくれた同窓会だ!楽しもうじゃないか!なあ皆!」
その声で不穏な雰囲気を払おうとした。その時だった。
周囲の料理を手当たり次第に食べ、飲み物を流し込む彼の姿を見えたのは。
「……は?」
そこにいたのは青のロングコートの男。
彼とボスの視線が合う。明るく盛り上がったフロアに不穏なる雰囲気は広がっていく。
「な……な!?――」
一度視線が合ったにも関わらず、コートの男は黙々と食事を続けていた。
「こりゃ美味いな……」
集まった一同の視線をどこ吹く風に彼は料理に夢中だった。
「てめぇ何でここにいやがる!?」
「リーダーに呼ばれたから……このエビフライ美味いな」
コートの男、昏仕儀タカカミは笑いながら食事を周囲には目もくれずに続ける。
――かつて自分たちが人殺しと言って学校から追放したその男がいる。それも自然に。
緊迫した空気の中でリーダーが最初に声を出す。
「ああそうそう。僕が呼んだよ。せっかくだから全員集合ってことで――」
「ふざけんなてめぇ!!」
リーダーに突っかかるボスの腕をタカカミはやんわりと止める。
「やめなって。そういうのよくないよ?」
「てめぇふざけ――」
必死に掴んできたその腕を振り払おうとする。
「あ……あれ?」
自分よりも遥かに細いその腕に片手で拘束され、困惑するボス。
「やめさないっての!!」
基本、人間の腕は一定の方向にしか動かないようになっている。もしその方向とは真逆の方向に振るうとなればそれはそれなりの力がいる。そしてその力は今まさに振るわれ――
「ぎゃああああっ!!」
折れた音が豪快に響いた。絶叫するボスに共鳴するかのようにそして周囲から悲鳴が響く。
「なんだ。こんな簡単に折れちゃうんだ。君のその立派そうな腕はさ。ハハハ!!」
笑い声を大きくして彼は折れた腕に叫び声を上げるボスを指さす。
「てめぇ何しやがるんだ!!」
数名のボスの仲間が一斉にタカカミに襲い掛かる。
「はいストップ」
タカカミは左手を振り上げる。
すると襲い掛かろうとした数名はその場にまるで固まったかのように止まった。
「な……あ……ガ……」
段々と彼らの顔色が青ざめていく。絞るような声で苦しみを示す。
「……あ。わるいわるい。息していいよ」
タカカミが指を鳴らすと彼らは息ができるようになった。
「スマンスマン。息を止めるっての忘れてたよ」
「ふざけんな!てめぇ何しやがった!?」
「ごめんって。ちょっとそのままでいてね。そこのデザート美味しそうだから先に食べさせてくれ」
止まった彼らを過ぎて、タカカミはわくわくした表情でデザートの並んだ一つのテーブルへと進んでいく。周囲は来訪したその男の行動とそこで起きた光景にただ飲まれるばかり。
「おっ、うまいじゃん。流石リーダー。いいとこ選ぶねえ」
「ハハハ。ありがとう。結構時間掛けたんだ。そこのステーキも絶品だよ?」
リーダーとにこやかに会話を交わすタカカミは集団の中にいるサブリーダーに視線を向ける。彼の瞼は大きく広がって笑っていた。
「お、サブリーダーじゃん。おひさ。元気してた?ご飯食べてるか?」
陽気に笑って近づいて来るタカカミに思わず後ずさる。
異様な彼の雰囲気によって流れる汗を拭いながらサブリーダーはその押されそうになる雰囲気の中で勇気を振り絞ってタカカミに問いかけた。
「そういや今日は……お前がボスに暴力受けた日か?」
「へぇ。流石に馬鹿じゃないか?でも違うんだよね。今日じゃないよ?」
「じゃあ何が目的だ……?何が起きた!?お前に!」
「復讐」
復讐という単語を口にすると彼は卒業生の集団に向けてニヤリと笑った。
集団はただ怯えていた。
「本当ならこんなことしなくてもいい。でもな、俺個人としてはけじめをつけなきゃいけないのさ。俺はそのためにあの日から今日までに色々と調べた。そして動いていた。全ては明後日の為にな」
「明後日……?何をする気だ?!」
「ちょっとな。皆を助けに行くのさ。あまりにも助けてほしいっていうもんでな。ホントにうるさくてかなわんのよ。昼も夜も。だから俺は数多の選択肢からこの手札を取らせてもら――」
「この野郎ぉぉぉっ!!」
折れた腕の痛みがあるにもかかわらず突撃してくるボスの叫び声にタカカミの声は消される。それまで落ち着いた笑みを浮かべていたタカカミであったが彼の叫びには耐えられなかった。怒りの表情で彼は炎を手から生むと瞬時に彼の前に、まるでそこにいたかのように移動し――
「愚か者め」
歪んだ顔で彼に掌の炎を浴びせた。炎は瞬く間にボスの体に広がって、焼き尽くさんとする勢いで燃え上がる。
「ギャアァァァァァッ!!」
流石に衝撃的な光景だったのか。それとも皆が正常でなかったのか。
悲鳴と共に集団は出口に流れ込んだ。だが――
「くそ、ドアが開かねえ!!」
「開けて、開けてよーーっ!!誰かーっ!!」
「早く開けろばか!!」
怒声と悲鳴の入り混じったその光景をタカカミは嘲り笑うように見ていた。
このフロアに入る際に彼はフロア一体に結界を張って彼らを閉じ込めたのだ。
「おっといけない」
足元で燃えるボスに視線を移すと指を鳴らした。
燃えていたボスはまるで何事もなかったかのようにその姿を皆に見せた。
「あ……あれ?」
ボスは瞬時に自分の体を見る。
それまで燃えていたはずの体が元に戻っていた。というよりはまるでそんな事がなかったかのようになっていた。その状況に理解が追い付かず、彼はタカカミの方を見る。
「なんだよ……お前一体何なんだよ!?何がしたいんだ!?」
「一言でいうなら俺の真の狙いは救済。だがその前にしたいことがある……ってこれさっきもいったやないかーい!!」
笑いながらいつの間にか持っていた銃を二発、ボスに向けて放った。
「うーん難しい。嘲るってのはさ」
銃弾は彼にあたることなく、後ろにいた集団の二名の背中を貫いた。悲鳴がさらに上がる。
「やめろ……やめてくれ。俺が悪かった!!だからっ――」
「だから何だ?」
タカカミは銃口を謝る彼の口にねじ込んだ。
怯えなく彼の顔をタカカミは大いに笑った。
「どんな気分だ?嘘と暴力で踊って……女抱いて遊んで今まで生きて。自由にやれていた所からいきなり命を握られているってのはさぁ!!」
「しょうがないよ昏仕儀君。彼は今もそういうところがあるんだから」
彼の前に臆することなく近づいて来たのはリーダー。
視線に悲しみを含めて彼はボスを見た。
「可哀そうに、ボス。君はどうしてマネージャーの件と言い、どうして嘘を確かめずにそういうことするのかなって学生時代に時折思ったよ」
「仕方ないさリーダー。こいつは元来そういう生まれ。生まれついてのってやつさ」
やれやれと呟いて突っ込んでいた銃を口から話すとその銃をポイっと投げた。
そして彼はボスに向かって目いっぱいの蹴りを腹に浴びせると彼の体は集団に向かって飛んでいき、一部の人間たちに命中する。
「ハハハ。ストライクってか!?」
ついに動かなくなったボスを目にしてまた笑う。
「なんだよ?お前何する気なんだよ!?」
サブリーダーが前に立ってタカカミに問いかける。
「当ててみろよ」
タカカミは手に持っていた銃を投げた。銃は集団の前に転げ落ちる。
「俺を撃ってもいいぜ?『どんな目』に合ってもいいってんならさぁ!!ヒャハハハハ!!!」
大声で挑発するタカカミ。しかして集団は誰一人としてその銃を拾おうとはしなかった。ここまでの異常な現象を前に銃を手に取る勇気すら湧かなくなったのである。
「……なるほど。これは思ったより良い気分だ。そりゃあ力任せに暴力を……嘘でも振るいたくなるもんだな。ボスさんよ」
「お前……何が狙いだ?」
サブリーダーは問いかけた。タカカミはため息を吐いて彼の問いに答える。
「さっきも言ったが俺には救済の義務がある。だがその前にお前らだ。俺を貶めたお前らだ。ネットに個人情報とデマをばら撒いて俺を日の光から遠ざけ道を……夢を奪ったお前らを……俺は絶対に許さねぇ」
「何言ってる!?暴力はともかくデマって――」
「俺がやりました!!」
集団の内から大声が上がる。
「俺やりました。そうでないとお前を殺すって他の連中に言われました!あいつらに――」
「てめぇこら俺を売るなって――」
集団の内で喧騒が広がる。
デマに関しては一部の生徒がタカカミに関する嘘の書き込みをしろと別の生徒に脅しをかけられてやったという。さらにタカカミの個人情報散布をしたことも自白した。
「はいありがとう。ちなみに親御さんとかだったか?そっからも丁寧に追い出しに拍車を掛けたのもいるんだよな?!」
タカカミは新しい銃をその手に光を起こして作り出すとそれを集団に向けた。
「は……はい私です!怖くてお父さんに連絡してそれで――」
「ご苦労さん」
一発の銃声が轟く。膝を打たれた女性は叫び声をあげてのたうち回る。
「さて残ってるのは――」
銃をパンパンと鳴らしながら放つ。怯え、竦む者達の群れを見て彼は満足そうに微笑んだ。
――いいね!博打で大勝ちした日よりも遥かにいい気分だ!!
人生で最も嬉しかった瞬間を思い返しながら目の前で倒れこみ、嘆く者達を見て大声で笑っていた。