届け先は郊外にある、マクドガル・カーペンターズ。
社名から察するに、荷物の中身はたぶん建築材料か道具の部品か何かだな。久しぶりに真っ当な配送ができそうだ。
仕事の斡旋をしてくれたのはI・T・Aじゃなく、普通の運送協会だ。
依頼料も低いからそんなに危険な物じゃないだろう。
事務所らしき建物の入り口で声を掛けると、中から幼い女の子が出てきた。
生意気に社名入りの真新しい白いツナギを着ている。
年格好はコイルとそれほど変わらないな。
「何かご用でしょうかー?」
「あ、マクドガルさんに届けモノなんだけど」
「……ここには私を含めて三人の
面倒くさい。どうせ会社宛てなんだろうから、さっさとデータ認証して荷物を受け取れっての。あんたは入国管理局のアンドロイドか。
私はもう一度名前を確認し、それを告げた。
「えーと、ライル・マクドガルさん宛てだね。じゃあこの機械に手を当てて認証……」
しかしその子は荷物よりもコイルに興味を示し、物珍しそうにその尻尾を眺めていた。コイルも後ろを向いてご自慢の尻尾を披露し、次に頭に付いている猫の耳を見せながら微笑んでいる。
無視された私は我慢できなくなり、大声で言った。
「ライルだよライル! ライル・マクドガルさん! ほら! 早く荷物を受け取りな!」
「どうした? 大声で。ライルなら居ねえぜ? この時間は貨物ドックにいるんじゃねえかな?」
声のする方を見ると、事務所の中から背の高い男が出てきた。
木屑にまみれたツナギを着た、二十代くらいの男だ。そいつは私の前に来ると、面倒くさそうに機械に手を当てて認証し、荷物をふんだくって言った。
「まーたあいつ、船の部品を買ったんだな? 法人割引き狙いでうちの社名使うなっての」
なんだ、船の部品だったのか。
しかし宇宙船を作る所って感じはしないし、川遊びかなんかのボートの部品だろうな。
コイルを見ると、少女マクドガルと何やら楽しそうに話していた。尻尾をピンと立てていい雰囲気だ。子供はすぐ打ち解けるからな。しかし仕事が終われば長居は無用だ。
「ほら、コイル。帰るぞ」
「あのね! メルちゃんがあっちに川があるから行こうって! ……ダメ?」
「ダメだ。ほら、帰るぞ」
その時、体のでかいマクドガルが私の頭をクシャっと撫でながら言った。
「まあいいじゃねえか。子供は元気に外で遊んでた方がいい。微妙な年頃のお前にはコーヒーを入れてやるから、こっちへ来な」
コイルはその言葉を聞くと、少女マクドガル……メルと一緒に行ってしまった。
まったく。遊びに来たんじゃないんだけどな。まあいいか。いつも戦艦の中だもんな。この男の言うように、外で元気に走り回っていた方が子供らしくていい。
事務所の中は木で出来たテーブルセットが一組。壁際には、これも木で出来た玩具がいくつも並べてあった。最近の建築屋ってこういうのも作ってるのか。
木材の加工中だったのか、裏手から木のいい香りが漂ってくる。その香りに混じってコーヒーの匂いが運ばれてきた。玩具を眺めていた私に、マクドガルが説明した。
「ああ、それな。スペースコロニーなんかに輸出してるものだよ。あそこは人工物やフェイク品が多いから、そういう本物が珍しいらしい。サイドビジネスってやつさ。まあこっちに来て座れよ」
私は言われた通り、木の椅子に座った。
コロニー育ちってわけじゃないが、私も木の製品は珍しく思う。
地球では伐採すら禁止されていて、建築材や玩具に使うなんて条約違反だ。
マルスの星、惑星ラミューでも間伐以外は禁止されていたな。
コーヒーを飲んでいると、再びマクドガルが話しはじめた。
「俺は建築家のカーク・マクドガルだ。お前運送屋だよな? 頼みたいことがあるんだが」
「運送屋であって普通の運送屋じゃない。インターステラ・トランスポーター。運び屋だよ。頼まれてもいいが依頼料は高いよ。
「分かってるよ。だからお前みたいな
なるほど。私の正体を見抜いていたか。
建築屋が私みたいな運び屋を使うとはね。しかしこちらの目的地はベルリウス星だ。そこから遠ざかるルートは無理だろう。とりあえず私は条件を提示し、依頼内容を聞くことにした。
「別におかしな物を運べっていうんじゃない。ほら、そこに飾ってあるような木の玩具を一つ運んで欲しい。この惑星からそう離れてはいないが……ただ、正規ルートじゃ行けない場所だ」
「それはどこだ?」
「リーファ八番スペースコロニー特別区。