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第2話 マクドガル・カーペンターズと木の玩具

 届け先は郊外にある、マクドガル・カーペンターズ。

 社名から察するに、荷物の中身はたぶん建築材料か道具の部品か何かだな。久しぶりに真っ当な配送ができそうだ。

 仕事の斡旋をしてくれたのはI・T・Aじゃなく、普通の運送協会だ。

 依頼料も低いからそんなに危険な物じゃないだろう。


 事務所らしき建物の入り口で声を掛けると、中から幼い女の子が出てきた。

 生意気に社名入りの真新しい白いツナギを着ている。

 年格好はコイルとそれほど変わらないな。


「何かご用でしょうかー?」

「あ、マクドガルさんに届けモノなんだけど」

「……ここには私を含めて三人のがいるんですけど……」


 面倒くさい。どうせ会社宛てなんだろうから、さっさとデータ認証して荷物を受け取れっての。あんたは入国管理局のアンドロイドか。

 私はもう一度名前を確認し、それを告げた。


「えーと、ライル・マクドガルさん宛てだね。じゃあこの機械に手を当てて認証……」


 しかしその子は荷物よりもコイルに興味を示し、物珍しそうにその尻尾を眺めていた。コイルも後ろを向いてご自慢の尻尾を披露し、次に頭に付いている猫の耳を見せながら微笑んでいる。

 無視された私は我慢できなくなり、大声で言った。 


「ライルだよライル! ライル・マクドガルさん! ほら! 早く荷物を受け取りな!」

「どうした? 大声で。ライルなら居ねえぜ? この時間は貨物ドックにいるんじゃねえかな?」


 声のする方を見ると、事務所の中から背の高い男が出てきた。

 木屑にまみれたツナギを着た、二十代くらいの男だ。そいつは私の前に来ると、面倒くさそうに機械に手を当てて認証し、荷物をふんだくって言った。


「まーたあいつ、船の部品を買ったんだな? 法人割引き狙いでうちの社名使うなっての」


 なんだ、船の部品だったのか。

 しかし宇宙船を作る所って感じはしないし、川遊びかなんかのボートの部品だろうな。

 コイルを見ると、少女マクドガルと何やら楽しそうに話していた。尻尾をピンと立てていい雰囲気だ。子供はすぐ打ち解けるからな。しかし仕事が終われば長居は無用だ。


「ほら、コイル。帰るぞ」

「あのね! メルちゃんがあっちに川があるから行こうって! ……ダメ?」

「ダメだ。ほら、帰るぞ」


 その時、体のでかいマクドガルが私の頭をクシャっと撫でながら言った。


「まあいいじゃねえか。子供は元気に外で遊んでた方がいい。微妙な年頃のお前にはコーヒーを入れてやるから、こっちへ来な」


 コイルはその言葉を聞くと、少女マクドガル……メルと一緒に行ってしまった。

 まったく。遊びに来たんじゃないんだけどな。まあいいか。いつも戦艦の中だもんな。この男の言うように、外で元気に走り回っていた方が子供らしくていい。


 事務所の中は木で出来たテーブルセットが一組。壁際には、これも木で出来た玩具がいくつも並べてあった。最近の建築屋ってこういうのも作ってるのか。

 木材の加工中だったのか、裏手から木のいい香りが漂ってくる。その香りに混じってコーヒーの匂いが運ばれてきた。玩具を眺めていた私に、マクドガルが説明した。


「ああ、それな。スペースコロニーなんかに輸出してるものだよ。あそこは人工物やフェイク品が多いから、そういう本物が珍しいらしい。サイドビジネスってやつさ。まあこっちに来て座れよ」


 私は言われた通り、木の椅子に座った。

 コロニー育ちってわけじゃないが、私も木の製品は珍しく思う。

 地球では伐採すら禁止されていて、建築材や玩具に使うなんて条約違反だ。

 マルスの星、惑星ラミューでも間伐以外は禁止されていたな。


 コーヒーを飲んでいると、再びマクドガルが話しはじめた。


「俺は建築家のカーク・マクドガルだ。お前運送屋だよな? 頼みたいことがあるんだが」

「運送屋であって普通の運送屋じゃない。インターステラ・トランスポーター。運び屋だよ。頼まれてもいいが依頼料は高いよ。真面まともなブツを運ぶなら正規の運送屋に頼め」

「分かってるよ。だからお前みたいなに頼むんじゃねえか」


 なるほど。私の正体を見抜いていたか。

 建築屋が私みたいな運び屋を使うとはね。しかしこちらの目的地はベルリウス星だ。そこから遠ざかるルートは無理だろう。とりあえず私は条件を提示し、依頼内容を聞くことにした。


「別におかしな物を運べっていうんじゃない。ほら、そこに飾ってあるような木の玩具を一つ運んで欲しい。この惑星からそう離れてはいないが……ただ、正規ルートじゃ行けない場所だ」

「それはどこだ?」

「リーファ八番スペースコロニー特別区。《リング》って呼ばれている、王室専用のコロニーさ」

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