確かに、巨大な岩のように大きかった。
でも、人間だった。
巨人のように大きいけれど、人間だった。
身長は、長身のカザンよりも頭二つ分ほど高い。
カザンはスラリとした長身だったが、その巨人はがっちりムチムチと全体的に大きかった。
けれど、「にゃおっ」と見上げた先にあるお顔は、間違いなく人間のお顔だった。
おまけに、見たことのある水色の作業服を着ている。
昨日お昼を一緒に食べた、ムラサキとタニアが着ていたのと同じ作業服。
水色の作業服は、魔法整備班の制服だ。
魔法整備班のクルーは、お仕事をするときは、水色の作業服でお揃いにするのだ、と長老に教わっていた。
つまり、あの巨人さんは――。
「にゃ、にゃんごろーは、ひょっろしちぇ、ちょんら、きゃんちらいを……?」
「あー、びっくりさせてごめんなー。俺は、魔法整備班のランドルフだ。ちょっと人より体が大きいけれど、れっきとした人間だ。ネコーを食べたりはしないから、安心してくれ」
にゃんごろーがカザンの足にしがみついたまま、巨人さんを見上げて言うと、巨人さんは頭を掻きながら名を名乗った。
巨人さんは、青猫号のクルーで、人間だった。お名前は、ランドルフ。
にゃんごろーは自分でも言った通り、とんだ勘違いをしていたのだ。
そろそろとカザンの足から手を離したにゃんごろーは、何やら覚束ない足取りでランドルフの前まで進み出た。ランドルフの少し手前で止まると、深々にゃにゃんと頭を下げる。床にお手々が付く勢いで、なんだか屈伸をしているだけのようにも見えた。
「ご、ごめんにゃしゃーい!」
「いやいや! 急に現れた俺も悪かったから! 気にしなくていいから! 頭を上げてくれ!」
「ほ、ほんちょ? もう、おこっちぇにゃーい?」
屈伸したまま、ぴょこッと顔だけを上げてランドルフを窺うにゃんごろー。
ランドルフの背が高すぎて、ランドルフのお顔は見えなかったけれど、じーっと見上げている。
ランドルフに言われた通り、頭だけを上げた……つもりなのかもしれない。
ランドルフはガシガシと頭を掻いてから、しゃがみ込んだ。
そうしたら、屈伸しながら顔だけ上げた状態のにゃんごろーからも、お顔がよく見えるようになった。
ランドルフのお顔は、優しく笑っていた。
笑っているお顔が見えて、にゃんごろーは嬉しくなって安心して、身を起こした。
背の高いランドルフは、しゃがんでいても長老よりもちょっとだけ高い位置にお顔があった。
それでも、大分馴染みのある高さだ。
「こうしよう、にゃんごろー君。急に現れた俺も悪かったし、にゃんごろー君も少しびっくりしすぎてしまった。だから、お相子だ」
「おあいきょ……」
「そう、お相子。どっちも悪かったし、どっちもごめんなさいをしただろ? だから、それでよしってことにしよう」
「……………………うん! にゃんごろーとランロリューしゃんは、おあいきょ!」
にゃんごろーは、二パッと笑って両手を上げた。
しゃがんでいるランドルフから、ふにふにの肉球がよく見える。ランドルフは突きたくなる気持ちをグッと我慢した。
だが、これにて一件落着……とはならなかった。
長老から物言いがついたのだ。
「時に、にゃんごろーよ。長老にごめんなさいは、ないんかい?」
「ちょーろーに……? にゃいよ!」
ごめんなさいを要求する長老に、にゃんごろーはパァーッとお手々を広げたまま、笑顔できっぱりさっぱり答えた。少しも悪びれるところのない、満開の笑顔だ。
長老は「むぅ」とお顔をしかめてから、にゃんごろーにビシッと肉球を突きつけた。
「にゃいよ!――じゃなかろう! にゃんごろーは、さっき長老のことを差し出して自分だけ助かろうとしたじゃろう! それについて、長老にごめんなさいんは、ないんかい!?」
「えー? しょーらけろー。れも、ちょーろーらって、にゃんごろーのほーがおいしーっちぇ、いっちゃ!」
「むぅー! じゃが、先に長老を売ったのは、にゃんごろーの方じゃろう!」
「れも、ちょーろーも、にゃんごろーを、うっちゃ! らから、おあいきょ!」
「う、うむっ!?」
にゃんごろーは、両手を腰に当てて「むふん」と胸を張った。
二の句が継げなくなる長老。
今回は、珍しくにゃんごろーの圧勝に終わったようだった。