珍しくにゃんごろーにやり込められて、すっかりいじけてしまった長老。
それを見かねて……なのかどうかは分からないが、マグじーじは長老に見学会の続きをするように促した。
「よし、それじゃ、次は卵船のことを、もう少し詳しく説明してやろうかの。ルドル、頼むぞ!」
「ほいきた、任せろ!」
マグじーじに頼られて、長老はコロッと機嫌を直した。何事もなかったかのように張り切って卵船のことを語りだす。いじけ気分は、完全に何処かへいってしまったようだ。白くて毛足の長い尻尾が、もふぁりんもふぁりんと楽しそうに揺れている。
「この卵のお船はじゃ。魔法の力でお空を飛ぶことで、遠いところまであっという間に連れて行ってくれるのじゃ! お空を飛ぶ鳥と、駆けっこで勝負しても、勝てんじゃろう?」
「うん! きゃちぇにゃい! やっちゃこちょにゃいけりょ、わきゃる!」
「うむ! それと同じじゃ! 地面を走っていくよりも、ずっと早くに遠くまで行けるのじゃ!」
「おー!」
張りきった割には、ほのぼのゆるっとした説明会が始まった。子ネコー相手だからというよりも、ネコーの説明会だからなのかもしれない。説明をしているのが、長老だからかもしれなかった。
子ネコーがポフポフと肉球拍手を贈ると、長老はもふぁんと胸を張った。自慢のもっふぁり胸毛を見せびらかしているようにも見える。
マグじーじは司会進行役を完全放棄して、観客に徹することにしたようだ。心も顔も緩み切っている。
ネコーのゆるっと説明会は、まだまだ続いた。
「卵船にはの、みんなを乗せる用の船と、荷物を載せる用の船がある」
「ほほぅ。おにもちゅを」
「みんなを乗せるお船は、たくさん乗れるのと、まあまあ乗れるのと、少しだけ乗れるのがある。荷物を載せるお船は、大きいのと中くらいのと、二つじゃな」
「ほへぇ。いっぴゃい、あるんりゃねぇ……」
にゃんごろーはお口を開いたままのお顔で、大きさの違う卵が載っている円盤を見回した。空の円盤もいくつかあった。
巨人さんびっくり事件の笑撃から立ち直ったクロウが、隣のカザンにこっそりと尋ねた。
「なんか、えらくざっくりとした説明だな?」
「うむ。これが、ネコー流ということなのだろう」
「まあ、それもあるが、にゃんごろーに合わせたんじゃろ。にゃんごろーは五つまでしか数を数えられないらしいからの」
「なるほど。下手に具体的な数字を出すと、むしろ、こんがらがるのか……」
二人の会話はマグじーじの耳にも届いたようで、カザンの返答を補足するように子ネコー裏情報を教えてくれた。
「ミルゥたち空猫クルーは、この卵船があるから、遠くまでお仕事に行くことが出来るのじゃ! トマやナナなんかは、遠くの方で会議がある時に使ったりもするの。会議というのは、難しい感じの話し合いをすることじゃ」
「へぇー。かいり……」
トマじーじとナナばーばの名前が出てきたのに、にゃんごろーは二人の不在にまだ気がつかないようだ。
クロウは堪らず吹き出したが、カザンはほんの少し口の端を緩めただけだった。
マグじーじは一人、奇妙な顔をしていた。ザマーミロという気持ちと、さすがに気の毒だなという気持ちが混じり合っているお顔だ。
長老の説明は、まだ続く。
「荷物を載せるお船は、にゃんごろーにとっても、大事なお船じゃぞ?」
「にゃんごろーに…………?」
「そうじゃ。どうしてか、分かるかの?」
「……………………は! もしかしちぇ!」
「お? 分かったか? ほれ、ゆーてみぃ」
「はい!」
説明に交えて長老が質問をすると、答えに辿り着いた子ネコーは、もふビシッと張り切って片手を上げ、発音は相変わらず迷子ながらもハキハキと答えた。
「きにょーちゃべちゃ、おひりゅごひゃん、わきょくのごひゃん! あの、らいりょーは、おにもちゅよーのたまぎょのおふねれ、わきょくきゃら、はきょんれきちゃ!」
「うむ。よく分かったの。その通りじゃ。卵船があるからこそ、遠い場所にある和国の食材……お料理の材料を新鮮なうちに運んでくることが出来るのじゃ!」
「にゃんごろーは、賢いな」
「うむうむ。良く気づいたのぅ。感心じゃ」
「食い物が絡むと、察しがよくなるんだな……」
「にゃへへぇ」
食いしん坊子ネコーならではの、実体験に基づいたかなり限定的な答えとはいえ、間違いではない。子ネコーにしては、なかなかの回答だ。
みんなは感心して子ネコーを褒め称えた。最後のクロウの言葉は、褒めているのか微妙ではあったが、感心していることは確かだった。
みんなに褒められたにゃんごろーは、照れ笑いを浮かべながら、嬉しそうに尻尾をくねらせている。
「ちなみにじゃ! お船の形は卵型がいいと言ったのは長老で、短い羽根を付けたら可愛いと言ったのはマデラじゃ!」
「えぇー! しょーらったのー!? ちょーろーとマレラおばーにゃんが!?」
「ほぅ……?」
子ネコーを褒め称える会が一段落したところで、長老がもふぁっと胸を反らして、重大発表風に卵船の裏話を教えてくれた。
子ネコーは、びっくりしつつもキラキラした尊敬のまなざしを長老へ贈る。
クロウ的にはどうでもいい情報だったが、カザンは興味をひかれたようだ。ということは、ミルゥも喜ぶ情報なのだろうと、クロウは今の話を記憶にとどめておくことにした。もちろん、報告任務を恙なく果たすためだ。それだけだ。
「それでな。その長老とマデラの意見を取り入れて卵船を造ったのが、このマグなのじゃ!」
「え、えぇえー!? しょーらったの!? マグじーじ、しゅごい! てんしゃい! しゅごしゅぎる! えらい!」
「そ、そうか? そうか? それほどでも…………あるかもしれんのぅ~」
最後に今度こそ、長老は重大発表をした。
青猫号のクルーであるカザンやクロウにとっては今さらすぎる情報だったが、なんにも知らない子ネコーにとっては、かなりの重大発表だった。
にゃんごろーはポフポフと肉球を叩いた後、「にゃー」と両手を上げて、マグじーじを褒め称えた。
にゃんごろーは、さっき長老に向けた以上の尊敬と感動のキラキラをマグじーじに贈った。贈りまくった。
子ネコーからのキラキラ光線を全身に浴びながら、マグじーじもまた深い感動に包まれていた。
「生きてて、よかった……」
涙ぐみながら呟くマグじーじ。
にゃんごろーは溢れる感動を伝えようと、マグじーじを見上げたまま、何度も何度も繰り返し、
キラキラ交じりの「ポムポム・にゃー」
――を贈り続けるのだった。